砂川涼子(ソプラノ) & 園田隆一郎(ピアノ)

オペラの歌姫が盟友とともに紡ぐ優美な日本のうた

砂川涼子 ©Yoshinobu Fukaya

 プッチーニ《ラ・ボエーム》のミミ、《トゥーランドット》のリューなどイタリアオペラで高い評価と人気を誇るソプラノの砂川涼子が2枚目のアルバム『悲しくなったときは〜日本歌曲のしらべ』を1月にリリースした。ここ数年、三木稔《源氏物語》の六条御息所役、團伊玖磨《夕鶴》のつう役を歌い、「日本オペラに魅了され、日本歌曲も勉強しようと思った。歌曲の世界観も私に合っている」と語る。CD発売記念として3月9日、サントリーホール ブルーローズで「日本のうたを歌う」と銘打ったリサイタルを開く。

 CDは28曲。寺山修司作詞の〈悲しくなったときは〉をはじめ、砂川が愛する中田喜直作曲の作品を9曲も入れた。加藤周一作詞の〈さくら横ちょう〉は別宮貞雄と中田の作曲による2曲を収めた。「学生の頃、〈さくら横ちょう〉は難しすぎて苦労しましたが、時を経て解釈も歌い方も変わり、特別な気持ちで歌った」。日本の歌にもイタリアオペラのように「息に言葉を乗せるスル・フィアートが求められる。どの言語も同じであることを学んだ。自然で美しい声の響きと、言葉がしっかり届くこと。難しいですが、歌の基本だと思います」。

 歌曲集「花のかず」から9曲や〈なにかが、ほら〉など木下牧子の歌曲も11曲収めた。

 「〈竹とんぼに〉をはじめ木下さんの歌曲はとても可愛らしいので、ぜひ皆さんに紹介したいと思いました。歌い方も自然と語るように心掛けました。優しく流れるメロディーなので、皆さんも口ずさみたくなるのではないかと思います」

 ピアノは2019年のデビューアルバム『ベルカント』に続いて指揮者の園田隆一郎。リサイタルでも園田が弾く。2人はロッシーニやプッチーニのオペラで指揮者と歌手として共演し、2005年度の第16回五島記念文化賞オペラ新人賞も同時受賞した盟友。

 「多忙な指揮者の園田マエストロには迷惑かと心配しながらも、ピアノ演奏をお願いしました。私が園田マエストロとの共演を望むのは、とても楽しそうに、一緒に音楽を奏でてくれる誠実な人柄と音楽性を持つ人だからです」

園田隆一郎 ©Fabio Parenzan

 園田は「プッチーニなどのオペラで発揮される砂川さんの抒情性、憂いを帯びたような声の色が日本歌曲にもぴったり合う」と語る。「特に中田喜直さんの〈霧と話した〉〈悲しくなったときは〉は絶品」。録音セッションでは「彼女の日本語の美しさが最も活かされるテンポや自然なフレージングを意識した」と言う。そして「砂川さんの活動の中心はこれまでもこれからもイタリアオペラだと思うが、彼女の日本語歌唱も素晴らしいと以前から思っていた」と今回の録音の意義を語る。

 リサイタルではアルバムでの達成が披露される。砂川は「距離感や雰囲気を大切にしたい。歌う息遣いや表情も感じていただき、素敵な時間を共有できたらうれしい。ライブ感も楽しみながら共演するので、それが伝わるといい」と抱負を語る。園田は「砂川さんの音楽性は常に新鮮。ハッとするような表現を突然仕掛けてきたりするので、CDとはまた違うライブならではの面白さがある。オペラとは一味違う言葉と音の親密な結びつきを皆さんと一緒に味わいたい」と期待する。ディーヴァとマエストロが繰り広げる日本歌曲の世界。抗しがたい魅力だ。
取材・文:池上輝彦
(ぶらあぼ2024年3月号より)

砂川涼子 ソプラノ・リサイタル~日本のうたを歌う~
2024.3/9(土)14:00 サントリーホール ブルーローズ(小)
問:AMATI 03-3560-3010
https://www.amati-tokyo.com

SACD『悲しくなったときは~日本歌曲のしらべ』
アールアンフィニ
MECO-1080
¥3850(税込)