多士済々たる顔ぶれが揃う人気のステージ
東京都文京区の文化拠点のひとつ、文京シビックホールが開催する「響きの森クラシック・シリーズ」。東京フィルハーモニー交響楽団による年4回の本格的なオーケストラ公演で、第一線で活躍する名匠から期待の俊才まで、多彩なアーティストが並ぶ人気シリーズである。2024-2025シーズンも名指揮者と豪華ソリストが出演。全公演土曜日15時開演で、充実した週末の午後を過ごせる。
“W小林”の共演
シーズン最初は、6月8日の【Vol.80】。指揮者は傘寿を超えて巨匠としての存在感を深めている小林研一郎。ソリストは早くから活躍し、2021年ショパン国際ピアノコンクール第4位入賞でその実力を広く知らしめたピアニスト小林愛実。半世紀近い年齢差のある、人気の“両小林”がそろう公演としても貴重だが、両名とも聴く者の情感に訴える演奏を特長としており、モーツァルトのピアノ協奏曲第20番ニ短調という、ほの暗い情緒をもつ傑作での共演で、その相乗効果は注目となる。そして、後半はマエストロ得意のスメタナの連作交響詩「わが祖国」より抜粋。24年はスメタナ生誕200年で、記念年にふさわしい大名演になるはず。
コバケンの「幻想交響曲」
10月5日の【Vol.81】には、再び小林研一郎が登壇。前半はベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲で、ソリストは神尾真由子。チャイコフスキー国際コンクール優勝から最先端を走り続けている神尾も、情感豊かで濃厚な表現に優れた名手として知られる。ヴィルトゥオーゾ的な作品を得意とするイメージがあるが、筆者は3年前に彼女の弾くベートーヴェンの協奏曲に接し、ストイックに濃密な美音をコントロールし、殊に第2楽章では弱音が響き渡る様が感動的で、これこそ神尾の本領なのかと驚かされた。今回は同じくベートーヴェン、しかも濃密さでは劣らぬマエストロとの共演で、期待がつのる。後半は、小林研一郎といえばこの曲! というべき得意演目、ベルリオーズ「幻想交響曲」。“炎のコバケン”と呼ばれてきた彼の真髄を、そしてこの作品のもつ狂熱を、存分に体感できるに違いない。
ウィーンを拠点とする若き才能
年の明けた2025年1月11日の【Vol. 82】は、指揮者として国内各地の楽団にひっぱりだこの才人、鈴木優人の指揮で、J.シュトラウスⅡのワルツ「春の声」、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、ドヴォルザークのチェロ協奏曲という、新年らしく華やかな名曲プログラム。ヴァイオリンは22年ウィーンのクライスラー国際ヴァイオリン・コンクール第2位入賞、03年生まれの期待の俊才、吉本梨乃。すでにウィーン国立歌劇場管弦楽団でオペラを弾くという得難い経験も積んでおり、どのような成長ぶりをみせてくれるのか楽しみ。チェロは説明不要の屈指の名手、宮田大。彼のドヴォルザークは常に聴きものであり、この日も最高の演奏で名曲を堪能させてくれるだろう。
バッティストーニの「田園」
25年3月22日の【Vol.83】は、東京フィル首席指揮者アンドレア・バッティストーニが登壇。彼と東京フィルは毎回白熱のコンサートになり、聴き逃がせない。この日はベルリオーズの序曲「海賊」、グラズノフのヴァイオリン協奏曲、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」というバラエティ豊かな演目で、オーケストラの楽しみを満喫できる。特に彼の「田園」はどんな解釈になるのか予想がつかず、他では聴けない体験になるはず。グラズノフのソリストは辻彩奈。若手奏者の旗手というべき存在で、アルゲリッチと共演するなど、その活躍はとどまるところを知らない。民族情緒豊かで技巧的な本作で、期待を超えるパフォーマンスを示してくれるはず。
文:林 昌英
(ぶらあぼ2024年1月号より)
【Vol.80】 2024.6/8(土)
【Vol.81】 10/5(土)
【Vol.82】 2025.1/11(土)
【Vol.83】 2025.3/22(土)
各日15:00 文京シビックホール
シリーズセット券 2024.3/31(日)までの期間限定販売
問:シビックチケット03-5803-1111
https://www.b-academy.jp/hall/