下野竜也(指揮) 東京都交響楽団

熟練のタクトが彫琢する偉大なシンフォニストの隠れた傑作

左:下野竜也 ©Naoya Yamaguchi
右:津田裕也 ©Christine Fiedler

 ブルックナーの交響曲といえば、演奏機会の多い第3番以降が名作なのであって、それ以前の作品は…。そういう印象をこの作曲家を熱心に崇拝する人以外が抱いてしまっても仕方ないが、初期作には他に代えがたい独自の魅力がある。東京都交響楽団の音楽監督・大野和士が「初期のブルックナーは不器用すぎて安全な道を選べず、途中に障害物があってもひたすら直進し続ける。途中で事故が起こっているんですけれど、その転び方が和声的にユニークで面白かったりするわけです」と語っているのも実に興味深い。

 2024年にブルックナー生誕200年を迎えるのに先立ち、今シーズンから前倒しで都響は彼の交響曲を集中的に取り上げ始めている。10月に小泉和裕指揮による第2番が評判になったのも記憶に新しいが、1月13日には下野竜也指揮で第1番が演奏される。ブルックナーにとって2番目に完成した交響曲だが、実は未完で遺された最後の第9番を書く直前に改訂していた交響曲でもあるのだ。その結果、主題となるメロディなどはスタイルを確立しきれていないほど若々しいのに、そこから派生していく流れからは晩年の雰囲気が滲んでおり、他のブルックナーにはない世界が広がってゆく。彼の作品に必要以上の神秘性をまとわせない下野に似合う作品なので期待値も高い。前半には下野のような硬派で誠実な音楽をピアノで聴かせる津田裕也を迎え、モーツァルトの傑作、協奏曲第24番が聴けるのもいい。2つのハ短調から浮かび上がる異なる世界を楽しみたい。
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2024年1月号より)

【ブルックナー生誕200年記念】第991回 定期演奏会Cシリーズ
2024.1/13(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:都響ガイド0570-056-057 
https://www.tmso.or.jp