ジョン・アダムズ × 都響

現代最高峰のコンポーザー、国内オケで初めて自作を指揮!

 ——ジョン・アダムズの英雄交響曲、それが「ハルモニーレーレ」だ!

 現在76歳のジョン・アダムズは、アメリカを代表するクラシック・現代音楽の作曲家としての不動の地位を確立しているといって、まったく大袈裟ではない。とりわけ管弦楽曲は日本を含む世界中のオーケストラで日常的に取り上げられているし、オペラも現代作品としては異例なほど上演回数が多い。再演に耐えうるレパートリーを継続的に生み出してきた実績が、今日の名声に繋がっているのだ。

ジョン・アダムズ

 若い頃はクラリネット奏者としても活躍し、ラインスドルフ時代のボストン響で何度も演奏。ハーバード大学ではシェーンベルク門下のキルヒナーらに作曲を師事した。大学院修了の年にライリーによる「In C」と、1974年にライヒの「ドラミング」といった初期ミニマル・ミュージックの大傑作に出会ったことが転機となり、反復要素を取り入れた作品を試作。1977年にアダムズ自身が実質的な「作品1」と位置づけたピアノ曲「フリジアン・ゲート」へと結実している。

 ところがその後の歩みは、順風満帆とはいえなかった。1983年頃、自分の進んでいる道に自信がもてなくなったようで創作上の危機を迎えてしまう。1年半も続いた困難な時期を乗り越えるターニングポイントとなったのが、1985年3月21日に初演された「ハルモニーレーレ」である。ミニマル・ミュージックの反復性に、後期ロマン派〜近代にかけて培われた豊穣な管弦楽法を結びつけた傑作となった。

 アダムズが本作について「調性の将来が不安だった時期に、調性の力を信じることを表明した」と語っている通り、彼自身が今後進む道を宣言したマニフェスト(声明文)にあたる。ベートーヴェンにとっての英雄交響曲のような作品と言い換えることもできるだろう。しかも、ただ美しいだけではなく、例えば第2楽章に訪れるカタルシスには明らかに後期マーラーやベルクが隔世遺伝している。アダムズのこの路線がその後多くの作曲家に影響を与えたことも鑑みれば、管弦楽曲の歴史においても重要な作品として位置づけられるはずだ。

エスメ弦楽四重奏団 ©Jeremy Visuals Photography

 そんな歴史的超重要作にして多くの名指揮者が再演を繰り返してきた傑作を、作曲者自身の指揮で東京都交響楽団の演奏により聴けるまたとない機会がやってくる。他にもユニークな近作がプログラムに並んでおり、序曲のような作品「アイ・スティル・ダンス」(2019)には、和太鼓とエレキベースが取り入れられている。弦楽四重奏(作曲者ご指名のエスメ弦楽四重奏団が共演)と管弦楽のための「アブソリュート・ジェスト」(2011)は、10代の頃「アメリカのベートーヴェンになりたい」と空想していたアダムズが全編にベートーヴェンを引用した刺激的な作品だ。

 アダムズはこれまでアメリカ中の名オーケストラはもちろんのこと、ベルリン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管、ロンドン響といったヨーロッパの一流オケでも自作自演を披露してきた。日本のオーケストラを指揮するのはこれが初めてだが、都響はご存知のように後期ロマン派〜近代の音楽も得意としているので相性の良さは間違いないはず。歴史的な邂逅を見逃すな!
文:小室敬幸
(ぶらあぼ2023年12月号より)

東京都交響楽団
第992回 定期演奏会Bシリーズ

2024.1/18(木)19:00 サントリーホール
第993回 定期演奏会Aシリーズ
1/19(金)19:00 東京文化会館
問:都響ガイド0570-056-057 
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