大坪泰子(きりく・ハンドベルアンサンブル リーダー)

ハンドベル芸術の最高峰

 「ハンドベルなら、もちろん聴いたことがあるさ」という方。でも、もしあなたがまだ「きりく」を聴いたことがないとしたら…。
 「きりく・ハンドベルアンサンブル」のリーダー大坪泰子によれば、「現在、日本で常設のプロのグループは私たちだけ」という。5〜6オクターヴつまり60〜70個前後のベルを13〜14人で演奏するのが標準的なハンドベル合奏だが、「きりく」は通常6〜8人編成。もちろんベルの数を減らすわけではないから、人数が少ないほど演奏は複雑で困難になる。
「鳴らし終わったベルを他のメンバーが取りやすい位置に置いたり、両脇のメンバーがコミュニケーションしやすいように一歩下がって彼らの視界を確保したりなど、音を出していない時の動きがとても重要です。パズルを解くように、緻密に決めてゆきます」
 その計算された無駄のない動きを見ているだけでも美しいのだが、彼女たちの最大の美点は、旋律やフレーズが実に自然につながって聴こえることにある。
「世界中のほとんどのアンサンブルが、楽譜のタイミングに忠実に演奏すればよいと考えていて、あとはせいぜい音量を揃えるぐらい。でも私にはそれでつながるとはとても思えないのです。だから私たちの演奏を聴くと、経験者たちのほうが驚くようです。世界で最もハンドベルが盛んなアメリカの協会の会長は、『自分たちのはハンドベル・ミュージックだけれど、きりくのは“ミュージック”ね』と言ってくれました」
 いうまでもなく、「ハンドベル」という枠を取り去ってなお十分に音楽的という賛辞だ。彼女たちのクリスマス・コンサートは毎年の恒例。
「今回はアイリッシュの歌を入れたりして、いつもの定番曲を少し外してみました。『アバイド・ウィズ・ミー』は有名な賛美歌(39番「日くれて四方は暗く」)ですが、実は皇后陛下が推薦してくださいました。幼い頃に親しんでいらしたそうで、でも題名も忘れてしまっていたのを、2012年のロンドン五輪の開会式で聴いて思い出されたとのこと。懐かしい感じの、とても素敵な曲です。有名なパガニーニの『カプリース第24番』は、尋常じゃない音の数があるのでずっと先送りにしていた曲で、ハンドベルの物理的な限界に近いかもしれません(笑)」
 「きりく」の美しい自然な歌が、実は彼女たちだからこそ可能な息の合った超絶技巧の産物であることを、ぜひ自分の目と耳で確認したいもの。ハンドベルのひとつの究極がここにある。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ + Danza inside 2014年12月号から)

12/6(土)16:00 フィリアホール
12/19(金)12:30 19:00 浜離宮朝日ホール
問:ミリオンコンサート協会03-3501-5638
http://kiriku-handbell.weebly.com
※全国公演についての詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。