ファビオ・ルイージ(指揮)

コンセルトヘボウ管の生体験は格別です

(C)Morten Abrahamsen

 数々の世界的ポストを歴任し、近年はN響とのコンビでも知られる、現代を代表する指揮者の一人、ファビオ・ルイージ。彼は今秋、世界のトップクラスに位置するオランダの名門、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を率いて来日する。

 日本では初共演となるコンセルトヘボウ管だが、実は浅からぬ関係にある。

 「初共演はヤンソンスの時代で、もう20年近い付き合い。最初から良い関係を築くことができ、それ以降毎年のように客演しています。演目はドイツものが多いのですが、最後に共演したのは、チャイコフスキーの交響曲第6番、ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番といったロシアもの。日本ツアーの指揮は、2020年シーズンに依頼されて、とても嬉しく思いました」

 コンセルトヘボウ管はやはり「特別な存在」だという。

 「彼らの特徴や魅力を挙げれば大きく2つあります。1つは現代オーケストラとは全く異なる“音”。それは長い伝統に裏打ちされたもので、透明感があると同時に温かく、ダークな面も持っています。もう1つは“柔軟性”。特にフレーズを形作っていく柔軟性は格別です。またリズム等に関しても、こちらの表現を理解し、自在に対応してくれます」

 今回の日本ツアーでは2つのプログラムを披露する。

 「私は常々、ツアーではオーケストラが手の内に入れているレパートリーを演奏したいと思っています。コンセルトヘボウ管であれば、もちろん大きな交響曲。しかも重要作を取り上げたい。そこで、スタンダードなチャイコフスキーとドヴォルザークの作品をメインにしました」

 1つは、ウェーバーの《オベロン》序曲、リストのピアノ協奏曲第2番、チャイコフスキーの交響曲第5番(11/4,11/5,11/7)。

 「《オベロン》序曲は、オペラの音楽ですが、交響曲と言っていいほどの作品。ホルンのソロなどもあって、オーケストラのヴィルトゥオーゾ性を引き出せる曲です。リストの方はピアニストのヴィルトゥオージティを特に引き出せる作品。ピアノ協奏曲の中ではラプソディックな音楽でもあります。チャイコフスキーの5番は全交響曲の中で最も重要な作品の1つ。ロシア人の魂の声や豊かな感情が表現されている、作曲者が魂を捧げた音楽です。そのロシアの歌はすべての人間に語りかけますし、人間の魂が音楽の美しさに結びついてもいます」

 リストの協奏曲のソロを弾く名ピアニスト、イェフィム・ブロンフマンとの関係も深い。

 「初共演は1988年で、演目は今回と同じリストの協奏曲第2番。以来、頻繁に共演しています。彼は現代の偉大なピアニストの一人。リストの2番は私も好きで、他のピアニストと演奏したこともあるのですが、ブロンフマンとの共演では目覚ましい発見が多々ありました。また、コンセルトヘボウ管で彼と最後に共演したラフマニノフの3番では、深い解釈というものを常に探究しているピアニストだと、改めて感じました。もちろん今回のリストの協奏曲も同様でしょう。ただ人間は常に成長し変わるもの。リストの2番を演奏するのは35年前の初共演以来ですから、どうなるかとても楽しみです」

 もう1つのプログラムは、ビゼーの交響曲第1番とドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」(11/3,11/9)。

 「ビゼーの交響曲は比較的レアながらも大好きな作品です。ビゼーといえばロマン派のイメージがありますが、この曲は古典的な音楽。非常にクリーンで形式的にも完成されています。それに後半の『新世界より』との対照性も妙味となります。また、コンセルトヘボウ管は音楽の違いをすべて理解し、作曲家の個性も把握しています。ですから、ビゼーの交響曲が若い作曲家が書いた輝かしい作品であり、ドヴォルザークの9番やもう1つのプログラムのチャイコフスキーの5番が成熟した深みのある音楽であることを、柔軟に表現してくれると思います」

 最後に今ツアーへ向けてのメッセージを。

 「ぜひ公演にいらしてください。コンセルトヘボウ管が世界最高峰のオーケストラであることは間違いありません。そして彼らの演奏を録音ではなくライブで体験するのは、格別なものであり、価値のある経験になります」

 現代屈指の名匠と最高峰オーケストラの共演に、ぜひ足を運びたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2023年10月号より)

Profile】
ジェノヴァ出身で、現代を代表する指揮者の一人。ドレスデン国立歌劇場の音楽監督やMETの首席指揮者、ウィーン響の首席指揮者を経て、現在はダラス響とチューリヒ歌劇場の音楽監督、そして2022年9月からはN響の首席指揮者を務める。コンセルトヘボウ管、ロンドン響、ミュンヘン・フィル、フィラデルフィア管、サイトウ・キネン・オーケストラなどに客演し、ザルツブルク音楽祭でもオペラを指揮。録音も多く、シュターツカペレ・ドレスデンとのR.シュトラウスの交響詩や、METでの《ジークフリート》《神々の黄昏》は数々の国際的な賞を受賞している。

Information
ファビオ・ルイージ指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
2023.11/5(日)15:00 京都コンサートホール 

11/7(火)19:00 サントリーホール
出演/ファビオ・ルイージ(指揮)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、イェフィム・ブロンフマン(ピアノ)
曲目/ウェーバー:オペラ《オベロン》序曲
   リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調
   チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 op.64
問:カジモト・イープラス050-3185-6728 
https://www.kajimotomusic.com 
※各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。


他公演 
2023.11/3(金・祝) ミューザ川崎シンフォニーホール(044-520-0200)
11/4(土) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)
11/9(木) 文京シビックホール(03-5803-1111)