FAZIL SAY 2023

予測不能な異次元のプレイが繰り広げられる3日間

(c)Marco Borggreve

 今年1月に来日し、ホールではクラシック音楽を、ライブハウスではジャズを披露して話題を呼んだ奇才、ファジル・サイが、再び来日する。今回は、各演奏会でそれぞれ一人の作曲家に特化したプログラムとなっている。

 初日、9月12日の大阪公演ではバッハの「ゴルトベルク変奏曲」全曲が演奏される。1月の東京公演ではプログラムの前半に置き、部分的に繰り返しを省略してやや短いバージョンで奏された。この日の公演は、休憩なしの約70分と告知されており、昨年リリースされたCDと同様、繰り返しの省略がないフルバージョン(約76分)に近い形で演奏される。CDのブックレットには、サイがこの作品に取り組むにあたり、色鉛筆で書き込みや色塗りをして綿密に分析した跡の残る楽譜が部分的に掲載されている。サイならではの音の強調、工夫が凝らされた変奏は驚きの連続なのだが、一筋縄ではいかない彼のことだから、また新たなアイディアが提示される可能性がある。果たしてどのような「ゴルトベルク変奏曲」を聴くことができるのか、目が離せない。

 続いて9月13日と14日は東京公演。13日はシューベルトに焦点があてられ、プログラムはピアノ・ソナタ第19番 D958と第21番 D960で構成される。後期の傑作として知られるこの2つの大規模なソナタとどのように対峙するのか。サイはこれまでにモーツァルトとベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲録音を行っている。古典派の作品を知り尽くし、自身の解釈で新たな扉を開いたと言っても過言ではない彼が、極めて内省的な性格を持つシューベルト最後の3つのソナタのうち2作を並べた一夜。いかにしてその深遠さを表現するのだろうか。

 14日はコンポーザー・ピアニストとしてのサイにフォーカスが当てられ、魅力ある自作曲が揃えられている。まず、現在もっとも注目される若手ヴァイオリニストとして精力的に活動する服部百音との共演で、ヴァイオリン・ソナタ第2番「イダ山」が日本初演される。とてもピアノの音には聴こえない打鍵が続く冒頭から、ヴァイオリンによる鳥の声、舞曲の要素などを含むこの作品は、聴く人の耳を惹きつけるだろう。彼の作品の中でも特に人気のある「パガニーニ・ジャズ・ファンタジー」や「サマータイム・ヴァリエーションズ」、近年多くのピアニストやピアノ学習者によって演奏されている「トルコ行進曲 “ジャズ”」といった、ジャズ作品が多く含まれているところも嬉しい。いずれも「今日のアンコールで聴けるかも!」という期待がファンの間では高かった作品群であるが、今回は正式に本編プログラムとしてクレジットされていることから、彼の音楽のユニークさを存分に楽しむことができるのは間違いない。

 暑い夏から演奏会シーズンである秋へと移り変わる時期に行われる来日ツアー。バロック、ロマン派、現代という3つの時代の作品から、ファジル・サイという音楽家の多面性、彼の音楽の豊かさを体現する3日間となるだろう。
文:多田純一
(ぶらあぼ2023年9月号より)

ファジル・サイ ゴルトベルク変奏曲《全曲》
2023.9/12(火)19:00 大阪/住友生命いずみホール
問:ABCチケットインフォメーション06-6453-6000
SAY PLAYS SCHUBERT
9/13(水)19:00 紀尾井ホール
SAY PLAYS SAY
9/14(木)19:00 紀尾井ホール
問:チケットスペース03-3234-9999
https://avex.jp/classics/fazilsay2023/