ノット&東響がおくる美しきブラームス交響曲第2番
7月定期リハーサルレポート!

取材・文:林昌英

 ジョナサン・ノットと東京交響楽団による、7月15日・16日の定期演奏会に向けたブラームス交響曲第2番のリハーサルを取材した。
 筆者は同じ組み合わせによる5月の《エレクトラ》のリハーサルも取材したが、そのときは演奏機会の稀少な大編成の難曲がスムーズに仕上がっていったことに驚かされた。今回はおなじみの名曲で、どのようなリハーサルが行われるのか興味深く、取材に臨んだ。

川崎定期演奏会 第92回
2023.7/15(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第712回 定期演奏会
7/16(日)14:00 サントリーホール

指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:神尾真由子
エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 op.61
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73

 取材した日はリハーサル2日目で、第4楽章を中心に聴くことができた。《エレクトラ》では話は最小限にして、適切な指摘とドライブで大曲を短時間で仕上げ切ったノット。ブラームスでは一転、提示部を演奏して自分のイメージとオケの状態との差を確認した後は、冒頭から細かい指摘を重ねて丁寧に作り込む。その詰め方に妥協はなく、楽章前半までで最初の1時間枠が終わってしまったほど。決して指摘内容はネガティブなものではなく、場面ごとにハーモニーの流れやモチーフの捉え方を詳細に確認し、それに即した音の出し方をポジティブに見直すもの。その結果、定番曲として付きまとう習慣やクセが洗い直され、曲本来の美しい構造が浮かび上がる。

休憩中にも綿密な打ち合わせを重ねるジョナサン・ノットとコンサートマスターの小林壱成 (c)TSO

 次の枠は、先述の要素をときにゆっくりと確認しながら、丁寧にコントロールされた音色で再構築していくことで、いつの間にか手垢のとれた響きに全体が統一されていた。勢いやエネルギーに耳が行きがちな第4楽章が、感動的なハーモニーの連続で構成されていることに気づかされ、目から鱗が落ちる思いだった。他の楽章も同様で、ソノリティを重視することでハッとするような瞬間が連続する。第3楽章のオーボエ(荒絵理子)の精妙を極める歌も特筆もの。

 楽員によると、ノットはベートーヴェンやブラームスなどのリハーサルでは、これまでもむしろよく話していたという。ただ、練習の合間にコンサートマスターの小林壱成に話を聞くと「以前とはちょっと違ってきているかもしれない」という。

「これまではどちらかというと“自分はこんなイメージをもっていて、皆さんにはこういうことをやってほしい、あとはよろしく”という感じの進め方でしたが、今回のブラームスは細かく具体的に詰めてきています。その結果、植物に水をやって潤いに満ちたような状態になりました。あとは本番がどうなるか、楽員の力量が問われる演奏会になるような気がします。それに、彼のブラームス観はあたたかな光に包まれているような、ベートーヴェンの延長というだけじゃない、特別なものにしたいように感じられます」

Issey Kobayashi

 コンサート前半は神尾真由子をソリストに迎えて、エルガーのヴァイオリン協奏曲。この曲のリハーサルは一部だけ立ち会えたが、英国人ノットの思いが乗ったノーブルなオケの響きと神尾のヴァイオリンのロマンと情熱の交錯が、絶妙なエルガー像を作り上げていた。近年の神尾の濃密な弱音の表現力は殊に聴きもので、この曲でも存分に発揮されるだろう。

Mayuko Kamio (c)TSO

 ノーブルといえば、ノットはブラームスの2番にエルガーのような品格を見出しているのかもしれない。この日の品のあるフィナーレの響きであれば、その状態のまま演奏会を迎えても、十分に新鮮なブラームスの姿を提示する快演と称えられるはず。とはいえ、そこはマエストロのこと、洗い直した状態から何を加えるのか加えないのか、どこに引っ張っていくのか、本番のステージで起こることは予想できない。サントリーホールは残席わずかだが、ミューザ川崎公演の方はまだ余裕がある模様。週末は新たなブラームス体験のチャンスとなる。

東京交響楽団
川崎定期演奏会 第92回

2023.7/15(土)14:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
第712回 定期演奏会

7/16(日)14:00 サントリーホール

出演/
指揮:ジョナサン・ノット
ヴァイオリン:神尾真由子
曲目/
エルガー:ヴァイオリン協奏曲 ロ短調 op.61
ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 op.73

チケット/S¥9,000 A¥7,000 B¥6,000 C¥4,000 P¥3,000

問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp