佐々木つくし(ヴァイオリン)&鳥羽咲音(チェロ)&桑原志織(ピアノ)

ドイツ留学中の三人が初共演で挑むメンデルスゾーン

 音楽学生のための奨学援助や公演・研究への助成など、クラシック音楽界をさまざまな形で支援する「ローム ミュージック ファンデーション」。援助を受けた奨学生たちが研鑽の成果を披露する「スカラシップ コンサート」が京都と東京で開催される。京都公演(7/30)でメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番を弾く、佐々木つくし(ヴァイオリン)、鳥羽咲音(チェロ)、桑原志織(ピアノ)の三人に聞いた。

 いずれもドイツに留学中の三人だが、これが初共演。しかし昨年のこのコンサートにも(別々に)出演していた。

佐々木「楽屋で、桑原さんと恋バナをしていた記憶があります(笑)」

桑原「そうでした。佐々木さんの初々しいお話を(笑)」

 と、すでに仲良し。公演が、若い音楽家同士の出会いの場にもなっているのがわかる。

桑原「大学も専攻も違うと、知り合う機会は多くはないので、今までになかった関係を作り出せる貴重な機会だと思います」

佐々木「舞台上の姿だけは知っていても、どんな方なのかを知る機会はなかなかありません。お話ししてみると、演奏と人柄がけっこうリンクしているんだなという発見もあって、人間としても豊かにならなければと考えるきっかけになりました」

鳥羽「奨学生が世界中から集まるので、お話しするだけで、お互いが留学している国や街の雰囲気を感じることができます。楽しい経験です」

 今回のトリオも、そんな交流の中から生まれた。

佐々木「私が鳥羽さんに、一緒にピアノ・トリオをやりませんかと声をかけて。じゃあピアノは・・・と、桑原さんに弾いていただくことになりました」

桑原「メンデルスゾーンはピアノ・トリオの一、二を争う有名曲。こういう場で演奏するのにふさわしいと、三人で話し合って決めました」

佐々木「ずっと弾きたかった曲なのですが、初めて弾きます。ドイツに留学している三人だから、ドイツものを演奏できたらいいなとも思っていました。楽しみです」

鳥羽「私も初めてです。冒頭のチェロのメロディには、幼い頃から憧れていたので、今回弾けるのは夢のようです」

桑原「あれはいいですよね。冒頭にあのチェロがあるのが、この作品が傑作たる理由のひとつだと思います」

 鳥羽と桑原は東京公演(8/6)にも出演。二人でブラームスのチェロ・ソナタ第2番を弾く。

鳥羽「ブラームスは私から桑原さんに提案させていただきました。いまドイツで、ドイツ音楽をドイツ人の先生のもとで勉強できているというのは、私にとって最高の環境です。とくに私はブラームスが大好きですので、この曲を選びました」

桑原「私はとくにブラームスの室内楽作品にすごく魅力を感じているので、機会をいただけてうれしいです。ブラームスのデュオはヴァイオリンとヴィオラとばかりやっていて、チェロと演奏するのは初めてなんです」

 現在、佐々木はリューベックで、鳥羽と桑原はベルリンで学んでいる。

佐々木「リューベックはドイツ人の学生が多いのですけど、みんな、うまいかへたかを気にするのでなく、私はこう弾きたい、この曲、素敵でしょ?という雰囲気がすごい。音楽で話している感じです。私も日々、マインドがどんどん解放されて、音楽が楽しくなってきました。ドイツに来て本当に良かったと思っています」

鳥羽「昨年の9月にベルリンに来たばかりで、まだまだ音楽家へのプロセスを歩んでいく段階。いまはとにかく、音楽にひたすら真面目な演奏家になることが夢です」

桑原「私は日本で勉強していた頃はあまり室内楽に積極的に取り組んでいなくて、もったいないことをしたなと思っています。留学してからはピアノ・トリオを組んだり、いまはピアノ四重奏に興味を持っています。たとえばフォーレの2曲とか、ぜひ並べて演奏してみたいですね」

 と、支援を活かし、さまざまなものをぐいぐい吸収しながら音楽家として成長している真っ最中だ。真夏のコンサートでは、そんな奨学生たちの自信や勢いが熱く炸裂するにちがいない。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2023年7月号より)

【Profile】
佐々木つくし

2021、2022年度奨学生
第87回日本音楽コンクール第2位、あわせて聴衆賞、黒柳賞を受賞。第18回東京音楽コンクール弦楽部門第2位。東京藝術大学内にて安宅賞、宮田亮平奨学金、アカンサス音楽賞を受賞。現在、リューベック音楽大学院にてハイメ・ミュラー氏に師事。

鳥羽咲音
2021、2022年度奨学生
2005年ウィーン生まれ。19年に「服部真二音楽賞」を受賞。使用楽器はムター財団より貸与されたJ.B.Vuillaume。6歳から毛利伯郎氏に師事。江副記念リクルート財団奨学生。22年10月よりベルリン芸術大学にてJ=P.マインツ氏に師事。

桑原志織
2021、2022年度奨学生
2021年アルトゥール・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール(イスラエル)、19年ブゾーニ国際ピアノコンクール(イタリア)、ともに日本人史上最高位第2位。東京藝術大学ピアノ専攻首席卒業、伊藤恵氏に師事。現在ベルリン芸術大学大学院にてクラウス・ヘルヴィッヒ氏に師事。

ローム ミュージック ファンデーション スカラシップ コンサート ~夢~【配信あり】

《京都公演》

会場:京都府立府民ホール アルティ
Vol.42
2023.7/29(土)15:00
出演:泉 優志、柴田花音(以上チェロ)、尾城杏奈、木口雄人、中川優芽花、望月 晶、山縣美季(以上ピアノ)、橘和美優、関 朋岳、吉本梨乃(以上ヴァイオリン)、栗原峻希(バリトン)
Vol.43
7/30(日)15:00

出演:石井希衣、清水 伶(以上フルート)、石原悠企、佐々木つくし(以上ヴァイオリン)、
開原由紀乃、桑原志織(以上ピアノ)、佐山裕樹、鳥羽咲音(以上チェロ)、鷹栖美恵子(オーボエ)、保崎 佑(ファゴット)
Vol.45
8/20(日)15:00

出演:梅㟢 秀(ピアノ)、上島 緑(メゾソプラノ)、東條太河、東 亮汰、福田麻子、本田莉愛(以上ヴァイオリン)

《東京公演》
会場:浜離宮朝日ホール
Vol.44
2023.8/ 6 (日)15:00

出演:石井希衣、清水 伶(以上フルート)、石原悠企(ヴィオラ)、泉 優志、佐山裕樹、鳥羽咲音(以上チェロ)、尾城杏奈(ピアノ)、栗原峻希(バリトン)、東條太河、東 亮汰、吉本梨乃(以上ヴァイオリン)
Vol.46
8/26(土)15:00

出演:梅㟢 秀(ピアノ)、上島 緑(メゾソプラノ)、柴田花音(チェロ)、福田麻子、本田莉愛(以上ヴァイオリン)、保崎 佑(ファゴット)

問:otonowa 075-252-8255(京都)
  1002(イチマルマルニ) 03-3264-0244(東京)
https://micro.rohm.com/jp/rmf/lp/scholarship_2023/
https://curtaincall.media/(配信)
※公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。