美しいフランス音楽とともに王妃が歩んだ波乱万丈の人生を辿る
人類の歴史と同じくらい古くからある楽器ハープは、歴史を物語るのにも適している。その「物語」の導き手が、昔日の音楽の作法に通じた古楽器の名手で、同時にチェンバロ奏者でもあるとしたら…? 王子ホールの「西山まりえの歴女楽」は、平日日中開催ながら他に代えがたい学び豊かな音楽的洗練を体験できる人気シリーズだ。
第9回の主人公は、ルネサンス宗教戦争期のフランス王妃マルグリット・ド・ヴァロワ。ヴェルディやワーグナーが注目され始めた頃に書かれたA.デュマ父の歴史小説『王妃マルゴ』を介し、演劇はもちろん数々の映画や萩尾望都のマンガでも描かれてきた人物だが、なにしろ案内役は一流古楽奏者の西山まりえ。本人の生前に宮廷で知られていた、現代では実演の場が多いとは言えない16世紀末の音楽を次々とりあげてゆく。古楽に関心の高かったフォーレやドビュッシーにも繋がるフランス音楽の草創期を、解説付きの古楽器演奏を通じて肌で感じられる機会はきわめて貴重だ。しかも20世紀前半にプーランクが『王妃マルゴ』演劇上演向けに16世紀楽曲を使って仕上げた作品も演目に加え、古楽体験を「点」では終わらせない。
昨年のエリック・ル・サージュとのデュオでも注目されたチェロの中木健二、古楽から近代歌曲まで活躍めざましいソプラノの松井亜希のゲスト参入も頼もしい。銀座で過ごす公演前後の時間も含め、企画の確かさが上質の音楽体験に結びつく初夏のひとときになりそうだ。
文:白沢達生
(ぶらあぼ2023年7月号より)
2023.7/5(水)13:30 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990
https://www.ojihall.jp