日本での上演は18年ぶり、R.シュトラウス《エレクトラ》はヴィオラに注目!?[前編]

東京交響楽団特別演奏会 R.シュトラウス:歌劇《エレクトラ》(演奏会形式)

 昨年行われた、R.シュトラウスの演奏会形式オペラ・シリーズ第1弾《サロメ》が好評を博したジョナサン・ノット&東京交響楽団。
 第2弾は《エレクトラ》。管弦楽は、ヴァイオリン・ヴィオラが3群、チェロは2群に分けられた特別な編成で、第1ヴィオラにはヴァイオリンとの持ち替え指示のある珍しい作品。
 今回は《エレクトラ》に臨む東響ヴィオラパートから武生直子さん、多井千洋さん、小西応興さん、鈴木まり奈さんが一堂に会し、公演に臨む意気込みをヴィオラ・ジョークも交えつつ語っていただきました。
左より: 小西応興さん、 武生直子さん、 鈴木まり奈さん、 多井千洋さん

聴き手・まとめ:林昌英

名演を生み出す、ノット監督ならではのリハーサル

──ノットとのホールオペラ、昨年の《サロメ》は超名演でした。ノットさんとのリハーサルはどんな雰囲気でしたか?(林)

小西 ホールオペラで《サロメ》はやったことないから、ピットでやるのとは全く違いました。

武生 途切れがないから、始まってから場面ごとにどういう風に作るかということは、もちろん気を遣いました。ノットさんがどれだけの集中力と中身で来るかというのも大きいので。でもノットさんのリハは短いよね、いつも。

鈴木 2日目までにまとめて、3日目は通して終わり。細かいところを返すかなと思ったら、返さないで終わって…

一同 (笑)

鈴木 みんな「え…」みたいな感じで。

──あんな複雑なオペラでリハがわずか3日というのも驚きですが、しかも3日目はほとんど通しで終わりだったんですね。

武生 たぶん今回も(笑)

小西 やっぱりノット音楽監督は楽団員をすごく信頼してくれているから、あまりガチガチにせずに本番を楽しんで、という喜びを欲してリハをやっているようです。

武生 だから本番始まるとき、あまり疲れてないんですよね。

鈴木 ああ、そうかも!

武生 集中力は残されている。たぶん監督の頭の中に全てが入っているので、こちらも頭に入れておかないと動けない。《サロメ》の時も(リハで)先に進んだと思ったら急に戻ったりして、え、そこ?みたいな感じになる。だけど、最終的に全部弾くと、いつの間にかすごいストーリーができあがっていて。練習の仕方がすごく上手なんですね。

鈴木 最後にパズルが全部はまるような。

武生 はまるんだよね。いつもすごいなと思います。ノットさんはご自身の頭の中にあるものを言葉でみんなに伝えるから、リハでは頭も使います。

──(3月までコンサートマスターを務めた)水谷晃さんも、ノットさんとの共演などで超多忙なとき、やはり「頭を休めないと」という言い方をされていました。

多井 本当にそう思います。ノット監督の公演は、身体は全然疲れないんです。音楽が自然で共感できるので、身体への負荷はほとんど感じないんですが、頭が本当に疲れている。

武生 糖分摂取量が増えちゃう(笑)

鈴木 夜はパタッと寝るという感じになります。スイッチオフみたいな。

──出てくる音の質や迫力もひときわ特別なものを客席でも感じられます。

武生 集中力を本番に取っておいてもらえるから、その場でいろいろやってもエネルギーが上手に使える、その作用が大きいかもしれません。

鈴木 みんながまとまるから、音量的なものもそうですが、総量として倍音が出ているとか。

武生 和声のこと、調性のこと、響きを考えています。でも、基本はすごく譜面通りだなと思っています。楽譜を深く読むから出てくるものを、みんなと共有して作り上げていく。

──多井さんは東響に入ったときからノット時代でしたが、その雰囲気はどう感じましたか?

多井 魅力ある監督とは伺っていたんですが、それが理解できるようになったのは何度か経験してからです。東響は演奏会が多いので他の指揮者との違いを少しずつ感じてきて。「エロイカ」のとき、自分も思い入れがある曲で、どう振られるかをよく観察できたのですが、譜面に書いてないことまで解像度が高く、かつ自然に作り込まれて、緻密さの重要性と、クラシックの魅力を改めて感じさせられました。

──個人的にも、ノット監督指揮のシンフォニーでいえば、ラフマニノフ第2番と「エロイカ」は感動の超名演でした。「クラシックを演奏する・聴く魅力」が凝縮していたんですね。

エレクトラの濃厚な世界観

武生 R.シュトラウスというとシンフォニックで表現の幅がすごいから、最初はワーッと思ったりするんだけど、スコアを見ると意外と古典的だなといつも思うんです。きちんと分析して行けば、必ず音楽が繋がっているし、構成がはっきりしている。スコアを見ると面白いんです、色彩もあるし。そして、言葉と音楽が密接に絡んでいる、その密度が《サロメ》より《エレクトラ》の方が強いのかなと。スコアを把握してから舞台に立ちたいと思います。
 ストーリーについては、ギリシャ神話のドロドロっていうのはヨーロッパでは定番なのかな。

鈴木 野蛮性というか、すごく残酷だし、知らないだけかもしれませんが、日本の神話や民話にはあまり出てくることのなさそうな感覚のように思います。

──最後は復讐が成就した喜びの踊りで主役が死にますし。

武生 いろいろ読んでみると、エレクトラが虐待を受けていたというのがわかり、この最後は虐待で弱っているけど、復讐で生命が燃えていたというのもあるのかなと。それに、エレクトラの父親アガメムノンが殺されたという設定から始まるけど、その前のストーリーを知ったら、自分の子を生贄にしたりして、父親も悪いじゃんと(笑)

多井 世の中のこととリンクしますよね。見えていることだけが全てじゃないっていう。

武生 ストーリー上で誰が悪いというよりは、長いお話の中からある一部分を切り取っただけ。原田マハさんの『サロメ』を読んでから原作を読んだら、サロメがかわいそうになり、狂ってないかもって。でもそういうことって人間誰でもあるかもなって。

多井 ちょっとした精神上の変化で、普通の人も狂いますもんね。

([後編]へつづく)

R.シュトラウス 「エレクトラ」
(演奏会形式/全1幕/ドイツ語上演/日本語字幕付き)

2023.5/12(金)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
5/14(日)14:00 サントリーホール(完売)


指揮:ジョナサン・ノット(東京交響楽団音楽監督)
管弦楽:東京交響楽団

演出監修:サー・トーマス・アレン
エレクトラ:クリスティーン・ガーキー
クリソテミス:シネイド・キャンベル = ウォレス
クリテムネストラ:ハンナ・シュヴァルツ
エギスト:フランク・ファン・アーケン
オレスト:ジェームス・アトキンソン
オレストの養育者:山下浩司
若い召使:伊藤達人
老いた召使:鹿野由之
監視の女:増田のり子
第1の侍女:金子美香
第2の侍女:谷口睦美
第3の侍女:池田香織
第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女:髙橋絵理
第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女:田崎尚美
合唱:二期会合唱団

問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511(5/14のみ)
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/elektra/