シモン・トルプチェスキがヤマハホール初登場──初来日から20年、円熟のピアニズムが描く名曲の旅

©B Ealovega

 北マケドニア(旧ユーゴスラヴィア)出身のシモン・トルプチェスキ。完璧なテクニックと多彩な表現力で、ヨーロッパでは知る人ぞ知る名手として名高い。地元の大学で、ラフマニノフの流れを汲むボリス&リュドミラ・ロマノフ夫妻からロシアン・メソッドを骨の髄まで学び、彼の才能は見事に開花。以降、国際コンクール入賞はもちろん、著名指揮者やオーケストラとの共演はあとを絶たない。初来日は2006年。トルプチェスキの才能をいち早く見抜いた指揮者の大野和士によって日本デビューが実現した。

 それから20年。今秋、ヤマハホールのコンサート・シリーズ『珠玉のリサイタル&室内楽』で、トルプチェスキのソロをじっくり聴ける。注目すべきはベートーヴェンの変奏曲。ヴラニツキーのバレエ「森のおとめ」のロシア舞曲を主題にしたものと、ベートーヴェン自身の創作主題による2曲で、変奏形式を昇華させたこの作曲家の規格外の技量が堪能できる。そこにチャイコフスキー「四季」から〈10月 秋の歌〉と「ドゥムカ」。いずれもロシアの風土や文化が色濃く描かれた曲で、スラヴの血を持つトルプチェスキの演奏表現に興味が募る。ラヴェル「高雅で感傷的なワルツ」では彼のマジックのようなテクニックで、煌めくメロディとエスプリに酔えそうだ。最後は「戦争ソナタ」の1曲として知られるプロコフィエフ「ピアノ・ソナタ第7番」。確固たるピアニズムでの壮大な楽想は聴き応え十分。9月に47歳となるトルプチェスキ。音楽でお祝いだ。

文:上田弘子

(ぶらあぼ2026年8月号より)

珠玉のリサイタル&室内楽 シモン・トルプチェスキ ピアノ・リサイタル
2026.9/5(土)19:00 ヤマハホール

問:ヤマハ銀座店インフォメーション03-3572-3171
https://retailing.jp.yamaha.com/shop/ginza/hall


上田弘子 Hiroko Ueda(音楽ジャーナリスト、イラスト・デザイナー)

音楽大学在学中より創作(演奏・執筆・デザイン)活動を始め、現在、音楽雑誌、季刊誌、公演プログラムやCD解説等々に執筆。また国内外のコンクール審査員、評議委員、レクチャーやマスタークラス講師なども務める。ビジュアルの分野(イラスト、写真)でも活躍しており、著書「コンクールおもしろ雑学事典」(ヤマハミュージックメディア刊)、仙台国際音楽コンクール公式グッズ(作曲家コーヒー)ではイラストも描いている。