100年の歴史と未来が交差するN響2026-27シーズンの聴きどころ

 前身となる新交響楽団結成から一世紀に渡って日本の音楽界を牽引してきたN響が、今年1月からスタートさせた創立100年企画は、9月に幕を開ける2026-27シーズンでクライマックスを迎える。テーマは自らの伝統である独墺系音楽への立ち返りと、次の100年を見据えた新たな飛躍である。現代最高峰のマエストロたちの個性と、受け継がれてきた技術と解釈が火花を散らす強力なラインナップが揃った。

首席指揮者 ファビオ・ルイージ ©NHKSO

 首席指揮者就任から4年を経たファビオ・ルイージが、深い信頼関係のもとでこの記念シーズンの先陣を切る。シーズン開幕(9月Aプログラム)に選ばれたのは、フランツ・シュミットの大作オラトリオ「7つの封印の書」。第2次世界大戦前夜の1938年に書かれ、静かに壊れていく世界を描いたこの作品を、新国立劇場合唱団と名歌手たちを迎えてNHKホールに壮大に響かせる。

 第2000回定期公演でルイージが指揮したマーラーの交響曲第8番「一千人の交響曲」の名演は記憶に新しいが、10月の「N響100年記念 特別演奏会」では、交響曲第2番「復活」でさらなる高みをめざす。

 また同じく10月にサントリーホールで催されるプッチーニの歌劇《トスカ》(演奏会形式)も注目だ。N響は歴史的にドイツものを得意としてきたが、世界の名だたる歌劇場を熱狂させてきたルイージのイタリア・オペラへの本格的なアプローチは必見だ。

 さて、N響が最も多く取り上げ、自らの実力を磨き上げてきた作曲家がベートーヴェン。今シーズンは「N響100年」と「ベートーヴェン没後200年」という二つの記念軸が交差する。そこでCプログラムを通じて、100年間の営みの集大成というべき交響曲およびピアノ協奏曲の全曲演奏シリーズが敢行される。

左より:クリストフ・エッシェンバッハ ©Marco Borggreve/トゥガン・ソヒエフ ©Marco Borggreve/シャルル・デュトワ ©Chris Lee/マレク・ヤノフスキ ©Felix Broede

 交響曲はルイージによる瑞々しい「第1番」&「英雄」で開幕、クリストフ・エッシェンバッハの「第8番」&「運命」(10月)、トゥガン・ソヒエフの「第2番」&「田園」(11月)、そしてシャルル・デュトワによる「第4番」&「第7番」(12月)と、N響と深く結びついてきた巨匠や盟友たちが次々に登壇、年末の「第9」演奏会をマレク・ヤノフスキが指揮して完結する。年明けから始まるピアノ協奏曲サイクルもティル・フェルナーやアリス・紗良・オットといった人気のソリスト陣に加え、2月には2022年のヴァン・クライバーン・コンクールにおいて史上最年少でゴールド・メダルを受賞した新星イム・ユンチャンが登場する。

左より:イム・ユンチャン ©Shin joong Kim/アリス・紗良・オット ©Hannes Caspar/Deutsche Grammophon/エリム・チャン ©Simon Pauly

 世界最先端を走る若き指揮者たちを招聘し、未来の潮流を先取りしている点も見どころだ。4月のCプログラムに登場するのは、つい先だってサンフランシスコ響の次期音楽監督に就任することが発表されたエリム・チャン。12月のBプログラムに登場するマキシム・エメリャニチェフは、古楽アプローチとモダン・オーケストラの融合で快進撃する俊英だ。得意のモーツァルトやメンデルスゾーンに加え、名手ニコラ・アルトシュテットとともにスルンカのチェロ協奏曲(N響100年記念委嘱作品)の世界初演を担う。シーズンの大トリとなる6月のCプログラムを託されたのが、1993年生まれにしてフランクフルト歌劇場の音楽総監督を務めるトーマス・グッガイスだ。キリル・ゲルシュタインとの「皇帝」でベートーヴェン協奏曲サイクルを締めた後、メインには大編成のR.シュトラウス「英雄の生涯」という独墺正統派のプログラムを披露する。

左より:マキシム・エメリャニチェフ ©Andrej Grilc/ニコラ・アルトシュテット ©Marco Borggreve/トーマス・グッガイス ©Simon Pauly/キリル・ゲルシュタイン ©Marco Borggreve

 N響と歴史を築いてきた大巨匠たちも健在だ。ヘルベルト・ブロムシュテットは残念ながらキャンセルになってしまったが、代わりにマティアス・バーメルトがタクトを執ることになったブルックナーの交響曲第5番(10月A)、シャルル・デュトワとマルタ・アルゲリッチという伝説的コンビが聴かせるラヴェルのピアノ協奏曲(12月A)、さらにルイージによる「アルプス交響曲」(2027年4月A)や、パーヴォ・ヤルヴィによる北欧プロ(27年5月A)、ソヒエフの初ブルックナー(第3番/27年6月A)など、どの月、どのプログラムを切り取っても至高のオーケストラ体験が約束されている。

左より:マティアス・バーメルト ©Yasuo Fujii/マルタ・アルゲリッチ ©Adriano Heitman/パーヴォ・ヤルヴィ ©Kaupo Kikkas

 これまでの100年とこれからの100年、過去と未来が創造的に融合する2026-27シーズンの祝祭空間を、ぜひホールでダイレクトに体感してほしい。

文:江藤光紀

問:N響ガイド0570-02-9502
https://www.nhkso.or.jp
※各公演のプログラムや発売日等の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。