坂井千春(ピアノ)

ベル・エポック期のパリを彩った知られざる名作を集めて

 フランスの女性作曲家・ピアニストのセシル・シャミナード(1857〜1944)は、「森の精」などの洒脱なピアノ曲、フルートのための「コンチェルティーノ」で知られるが、聴き応えのある室内楽作品も残しており、演奏家としても活躍していた。こうした彼女の多彩な側面に光を当てた新譜が、ピアニストの坂井千春の『セシル・シャミナード作品集』だ。

 「シャミナードは美しく平易なメロディを基調とした気品のある作風で、まさに〈本物の真珠の光〉といえるでしょうか。パリ音楽院入学を父親に反対されたため、プライべートレッスンで音楽を学びましたが、その親しみやすい作風が生涯変わることはありませんでした。サロン風小品以外に、室内楽にも素晴らしい作品がありますので、ディスクの前半にはそうしたレパートリーを入れています」

 共演は坂井が教授をつとめる東京藝大の同僚を中心に、同大での室内楽の授業を受講していた若手たちが加わった。

 「ヴァイオリンの玉井菜採、チェロの向山佳絵子、そしてフルートの高木綾子という素晴らしい先生方に参加していただくことができました。『コンチェルトシュトゥック』の原曲オーケストラは大きな編成ですが、林川崇先生に弦楽五重奏にフルートを加えた編曲版をお願いして録音しました」 

 ディスク後半にはピアノ独奏曲が6曲収録された。

 「シャミナードの自作自演を聴くと、大変美しい音色をもったピアニストで、自在なリズムが素晴らしいのが印象的です。『秋』『森の精』はよく知られたきれいな曲ですし、『華麗なるワルツ第3番』は、ワルツをたくさん書いたシャミナードならではの作品です。『傷ついた小さな兵士の子守歌』には作曲者のとてもやさしい眼差しが感じられますね」

 今後はシャミナード周辺の女性作曲家にも取り組みたいという。

 「シャミナードは当時、ヴィクトリア女王の御前やホワイトハウスでも演奏し、ヨーロッパだけでなくアメリカでも大人気でした。今後は、彼女と頻繁に書簡を交わしていたアメリカ人女性作曲家ビーチ、少し後のフランス人女性作曲家タイユフェール、ブーランジェなども手掛けてみたいです。また海外で、日本の女性作曲家も紹介できたらと考えています」

 今回、録音されたピアノ・ソロ作品に20曲ほどを加えた楽譜も出版予定だという。「今回のCDを通じて、シャミナードの様々な側面を聴いていただき、せわしない現代とは異なるベル・エポックの世界にタイムスリップしていただけると嬉しいです」。
取材・文:伊藤制子
(ぶらあぼ2023年4月号より)

CD『セシル・シャミナード作品集』
コジマ録音
ALCD-9237
¥3080(税込)

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