原 浩之(Hakuju Hall 支配人)

“Hakujuでしかできないもの”を
こだわり抜いて走り続けた20年と今後

(c)大倉琢夫

 Hakuju Hallが10月に開館20周年を迎える。代々木公園近くの株式会社白寿生科学研究所の本社ビル7階、国内屈指の音響をもち、ソロやアンサンブルが美しく響くことにかけて世界水準といえるホールだ。設立時からホール支配人を務めるのは、現在、同社代表取締役社長の原浩之。社長業務で多忙を極める中、ホールの企画・運営にも情熱をもって携わっている。

 設立に当たっては「本業で掲げている“ゆとりある精神”の発信地として音楽ホールを作り、多くの人が集う場にしたい」と考えたと語る。しかし「当時は多くの音楽業界の人たちから“成功しない、やめた方がいい”と言われた」。そこで勝負の材料としたのが音響。果たしてその思惑通り、その音響こそが同ホールを唯一無二の存在にしている。

 「特徴のない多目的ホールではなく、極端に音響にこだわったホールを作ったら、新規参入でも通用するんじゃないかと考えました。その方針を決めてからは、デザインや設備が音響の邪魔をするとわかれば、デザイナーと揉めてでも形状や材質の変更に踏み切りました。Hakujuほど音響を最優先にしたホールもそうないと思います」

 企画・運営については「他ホールがやっているからうちも、という発想は全くない」と強調する。その方針がぶれたことはないが、自身の携わり方は変化したと振り返る。

 「最初は経験のある専門家に中心になってもらって運営していきました。その後、東日本大震災などをきっかけにアーティストとの関わり方を見直して、自分が出演者全員と深く関われるように変えました。考え方の軸も、開始10年は“他にないものを”と走り続けて経験と人脈を作り、その後10年はそれとは似て非なる“Hakujuでしかできないものを”になりました。今後も他と比べるのではなく、Hakujuならではのことを追求します」

 趣味でヴァイオリンを弾く原は「ホール運営は私の趣味の延長と思っている人がいるんですが、会社のブランドを高める仕事ですから!」と笑うが、実際はむしろ趣味の時間をほぼ削って運営に臨んでいる。気苦労も絶えないはずだが「たくさんの人とのご縁は大切にしたいし、思い出に残るすばらしいシーンも数多くありました」と充実感と誇らしさを見せる。

 今年は(休館を挟み)6月以降に20周年記念公演が計画されている。なかでも10月のガラコンサートは、震災以来の同ホールチャリティコンサートに積極的に参加してきた、「苦しい時間を共有して仲間意識ができたメンバー」(小林美恵、川本嘉子、長谷川陽子ほか)が出演する。ほかにも、原が「すでに歴史上の人物」と称賛する作曲家・藤倉大の作品による公演や、17回目を迎える8月の「Hakuju ギター・フェスタ」など、注目の公演が並ぶ。また、来年以降は「PAを使わず生の音であれば、クラシックという枠にとらわれず、ジャンルを超えたコンサートも増やしていきたい」と考えているという。

 主催公演プログラムには必ず「音楽を通じて“ゆとりある精神”を実現する場を提供いたします」と書かれていることを原は強調する。こだわり抜いて実現した、奇跡のような音響のホールで、これからも聴衆の心に潤いを届け続ける。
取材・文:林 昌英
(ぶらあぼ2023年3月号より)

問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp
※20周年のラインナップは上記ウェブサイトでご確認ください。