オペラの新しい愉しみ方を紹介する人気シリーズ番外編
「言葉がメロディを生む」とよく言われるが、オペラの現場では「同じ旋律をたびたび使う」作曲家が結構いて、上手くいけばそれで劇的表現がより膨らむことも。たとえば、ロッシーニの名作《セビリアの理髪師》で陰口を勧める男バジリオの「笑いの音型」が、同じ作曲家の悲劇《オテッロ》では「激昂した夫が妻の首を絞める」シーンに転用されていたりする。優れた旋律であればあるほど、様々な情景にフィットする—その不思議な面白さを、名歌手・彌勒忠史が、ナビゲーターとして解き明かす!
「ヨコスカ・ベイサイド・ポケットの『オペラ宅配便シリーズ』は、もう20年以上続いていますが、今回は制作側から切り口を変え、オペラ一作ではなく、コンサートのスタイルでの番外編の企画をと提案されました。それで思いついたのが、同じメロディが全然違う境地で展開する面白さを、皆さまに体感していただこうというこの企画です」
かくして音楽史に名高い3人、モンテヴェルディ、ヘンデル、モーツァルトの名曲が並ぶことに。
「こんな大作曲家たちでも、一つの旋律を使い回すことがあったんですね。まあ、替え歌のような楽しみ方でしょう。でも、自分が小学生の頃に作っていたおバカな替え歌とは違うから(笑)、聴けば『カッコいい!』となるわけです。ほぼほぼ同じメロディラインで歌詞しか変わっていないのに、表現する世界は全くの別物です。たとえば、モンテヴェルディがオペラ《アリアンナ》で「主人公が男に捨てられて嘆く」アリア(イタリア語)を作り、そのメロディを、キリストの死を悼むマリアの歌にすべく、ラテン語の歌詞で〈聖母の涙〉と題する宗教曲にしちゃったり。ソプラノの澤江衣里さんにしたら『大変。どうやって歌い分けたらいいの!』となりますが、当日は楽しんで歌ってくださることでしょう」
ほかにも、ヘンデルの名曲〈泣くがままにさせて〉がカンタータに転じたり、モーツァルトの初期のオペラ・アリアが歌曲に変化したり。どんな風に変わって聴こえるかと興味津々のプログラムである。
「今回、実は、ピアノとポジティフ・オルガンが一緒に演奏する曲も用意しました。現代のピアノと古楽のオルガンを同じピッチで響かせるという、滅多にない境地です。また、二重唱の一節も取り上げますので、その時は自分も声を合わせようかなと思っています。肩の凝らない内容で、新しい愉しみ方をご提供すべく励んでいます。ご来場お待ちしています!」
取材・文:岸純信(オペラ研究家)
(ぶらあぼ2023年3月号より)
オペラ宅配便シリーズ 番外編 Non Solo Opera!
オペラだけじゃない! ~オペラと歌曲の密な関係~
2023.3/5(日)14:00 ヨコスカ・ベイサイド・ポケット
問:横須賀芸術劇場046-823-9999
https://www.yokosuka-arts.or.jp