塚越慎子(マリンバ)

節目の年にリリースする音楽への愛を込めた記念アルバム

 デビュー15周年という節目を迎え、マリンバ奏者の塚越慎子が新譜『カンタービレ』を発表した。

 「マリンバは『打つ』ことで音の出る楽器ですが、私はずっと『歌うこと』=カンタービレを大切に演奏し続けてきました。その可能性と魅力を感じていただきたく、歌心をアルバムのコンセプトとしました」

 選曲はバラエティに富む。ピアソラやコセンティーノといったアルゼンチン作曲家の作品のほか、親交の深い日本の作曲家による作品も収めている。

 「長年の友人・挾間美帆さんの『マリンバのための小狂詩曲』は、私が海外で演奏する機会が増えてきたこともあり、日本にちなんだ作品をとお願いしたところ、宮城道雄の『春の海』を取り入れて書いてくれました。とても緻密に計算され、複雑なコードをもつ音楽で、マリンバの新しい可能性を押し広げてくれました。作・編曲家、ピアニストとしてもご活躍の山中惇史さんには、ベートーヴェンの『悲愴』第2楽章、ヘンデルの『オンブラ・マイ・フ』、武満徹の『小さな空』、ラフマニノフの『前奏曲』op.23-4のアレンジを書き下ろしていただきました。ラフマニノフはずっと憧れ続けてきた作曲家で、いつかマリンバで演奏したいという念願が叶いました! 『オンブラ・マイ・フ』や『小さな空』は空間的な広がりがあり、長いフレーズをトレモロに頼らずに“歌う”ことが求められたアレンジです。マリンバの奏法を試行錯誤する機会をいただいて、とても幸せでした」

 沼尻竜典が混声合唱用にアレンジした武満の「MI・YO・TA」も、内省的なエネルギーに満ちた細川俊夫作品「想起」も、美しい響きと余韻に包まれる演奏で、多くのリスナーにとってはマリンバの新しい響きを知るきっかけとなるに違いない。

 「12歳でマリンバと出会ってから迷いながらも前へ進み、自分を追い込みすぎて音楽を楽しめなくなってしまった時期もありました。でも、そんな時に私を救ってくれたのもまた音楽でした。J.S.バッハの『マタイ受難曲』の有名なコラールは、私を励ましてくれた一曲です。アルバムの最後はその曲で締めくくりました。今後も地道な活動を続けて、マリンバの可能性と魅力を皆様に知っていただけるように進んでいきたいです」

 ひたむきに、柔軟に、エネルギッシュに。そんな塚越の「歌」が詰まった完成度の高い一枚を、ぜひじっくりとお聴きいただきたい。本アルバムの収録曲がプログラミングされた12月25日のデビュー15周年記念リサイタルにも期待が膨らむ。
取材・文:飯田有抄
(ぶらあぼ2023年1月号より)

デビュー15周年 塚越慎子 マリンバ・リサイタル
2022.12/25(日)14:00 浜離宮朝日ホール
問:AMATI 03-3560-3010
https://www.amati-tokyo.com

SACD『カンタービレ』
オクタヴィア・レコード
OVCC-00168
¥3520(税込)