銀座ぶらっとコンサート #177 吉井瑞穂 鎌倉 to 銀座 Vol.4

オーボエの名手が描く日本へのノスタルジー

 マーラー室内管弦楽団の首席奏者として(2000年から2022年まで在籍)、そのオーボエが放つ芳醇な響きと、思慮深くも才気に富んだ音楽性で世界の聴衆を魅了してきた吉井瑞穂。2017年には四半世紀を過ごしたドイツを離れて故郷の鎌倉に拠点を移し、ソロや室内楽に意欲的な試みを展開中だ。

 王子ホールを舞台として2019年に始まった“鎌倉 to 銀座”もそのひとつ。今回の“Vol.4”のテーマは「西欧から見た日本、日本から見た西欧、その芸術と対話」。上記のタイトルの後に“to パリ”と書き添えれば話も早かろう。プログラムの核をなすのは、1930年代にパリで学んだ平尾貴四男が、病で早世する前に完成させた遺作のソナタ(1951)と、自らもオーボエ奏者だったフェリシアン・フォレが1930年代に書き上げた、牧歌的題材に基づく知られざる佳品。前者の第1楽章、そしてなにより後者に立ち込める野外の空気感は、大島ミチルの「風笛」や新井満の「千の風になって」はもちろん、静謐な音調の彼方に幻惑的な景観が現れては消えるアルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」とも呼応を遂げる。そこへさらに奥行を添えるのが、吉井が鎌倉で主宰する演奏会シリーズでもタッグを組んできた、パリでの留学経験を持つ鈴木純明の新作…。

 巨匠指揮者や綺羅星のごときソロイストとの共同作業を通じて西欧の水に深くなじんできたオーボエ奏者が、その経験をもとに邦人作品と対峙し、欧州の楽曲をニッポンジンの感性で読み解く。黒岩航紀のピアノとともに銀座の午後のひととき、双方向的な音楽の旅をリラックスしながら楽しんでみたい。
文:木幡一誠
(ぶらあぼ2022年12月号より)

2022.12/23(金)13:30 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.ojihall.jp