円熟のマエストロが振る王道の第九
「第九」の季節がやってくる。今年も、このベートーヴェンの大作を日本各地のオーケストラがこぞって取り上げる。古楽からのアプローチもあって、近年の「第九」は多様化。よりシャープでサクサクな進行、あるいはアクセントきつめのエキセントリックな演奏を耳にすることも増えてきた。
そんな風潮に惑わされず、ひたすら王道を行くのが、秋山和慶が指揮する東京交響楽団だ。このコンビによる年末の第九公演は、1978年にスタート。2019年より東響の第九公演は、音楽監督のジョナサン・ノットが指揮することになった。しかし、桂冠指揮者たる秋山の第九は、年越し蕎麦や除夜の鐘と同様、年末には欠かせぬもの。今年は、東京オペラシティシリーズとして、秋山が第九を指揮する。まさしく「日本の第九」文化の象徴といっていい。
なんといっても、その抜群の安定性。ゆったりと構えたテンポは揺れ動くことなく、堂々としたベートーヴェンを鳴り響かせる。同時に、細部もおろそかにしない卓抜した職人芸を誇る。
「エグモント」序曲との組み合わせも王道そのもの。第九の終楽章では、東響コーラスも独唱陣も手堅い演奏を聴かせてくれよう。そして、アンコールでは恒例の「蛍の光」も披露されるのではないか。
彼らの第九公演、ひと頃は「昭和の時代を思わせるオーソドックス」といわれたことも。令和なる元号になった現在、一周回って、秋山の第九こそが新鮮に響く。
文:鈴木淳史
(ぶらあぼ2022年12月号より)
東京オペラシティシリーズ 第131回
2022.12/21(水)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511
https://tokyosymphony.jp