トリトン晴れた海のオーケストラ 第12回演奏会

ベートーヴェン後期の傑作でさらなる高みを目指す

 トリトン晴れた海のオーケストラ、通称「晴れオケ」の快進撃が続いている。ベートーヴェン交響曲全曲演奏の最後の「第九」が2020年から延期になっていたが、昨秋ついに実現。指揮者なしの楽団としてのエポックメイキングな公演となった。しかも、そのリハーサルと本公演の模様がNHKの詳細なドキュメンタリー番組として放送されて、緻密でストイックな追究ぶりが話題になったことも記憶に新しい。「第九」という山を越えても、不動のコンサートマスター矢部達哉を中心に、各地の名手たちが集まる体制は変わらないが、今秋取り組んだベートーヴェンはなんと「大フーガ」。楽聖が晩年に到達した境地を示す後期弦楽四重奏曲集のなかの、殊に挑戦的な1曲だった。

 年明けの冬公演はベートーヴェン2曲で、メインは弦楽四重奏曲第14番。切れ目なしの全7楽章、まさに融通無碍、自在な音楽で構成された、最高傑作の誉れ高い究極的な作品である。弦楽合奏での演奏だが、その深く広大な音楽の表現にはふさわしいし、なじみのない方にこそ体験してほしい編成だ。ベートーヴェン探究を続ける晴れオケの強い意欲が伝わる選曲であり、至高の楽曲でさらなる高みを目指す。

 もう1曲はピアノ協奏曲第3番。暗い情熱と美しい緩徐楽章を味わえる、中期の代表作のひとつ。ピアノは小山実稚恵。もはや説明不要の名匠だが、期待通り盤石かつ繊細な演奏に加えて、指揮者なしの晴れオケとの共演であれば普段とは違う表現も生まれそうで、聴き逃がせない共演となる。
文:林昌英
(ぶらあぼ2022年11月号より)

2023.1/21(土)14:00 第一生命ホール
問:トリトンアーツ・チケットデスク03-3532-5702 
https://www.triton-arts.net