青木エマ(ソプラノ) & 園田隆一郎(音楽監督/ピアノ)

300席の空間で発見する名作オペラの新たな魅力

 舞台に登場するのは歌手3人のみ。ピアノ伴奏は指揮者が行い、細かくも大胆な演出で見慣れたオペラがまったく違う面を見せる…。Hakuju Hallのシリーズ「TRAGIC TRILOGY(トラジック・トリロジー)」は、そんなスペシャルな企画だ。青木エマ(ソプラノ)、城宏憲(テノール)、大西宇宙(バリトン)という3人のスター歌手が演じるのは、《椿姫》《トスカ》《蝶々夫人》という名作中の名作。昨年の第1回は《椿姫》を取り上げ、音楽面での充実に加えて300席の空間を意識した新鮮な演出(田尾下哲)で好評を博した。

 オペラは「人物が描かれているお芝居」だと話す青木は、「この空間ですから、ヴィオレッタとして存在し続けないとお客さまの意識がそがれてしまう緊張感がありました」という。実は「オペラ全曲を人前で弾いたのは初めて」で、「オーケストラの音をイメージしながら演奏した」という園田隆一郎は、「大劇場とは違う難しさがありますね。オーケストラや合唱で隠れる部分がないので、全部さらけ出さなければならない。ヴェルディもプッチーニもピアニッシモを多用するのですが、この空間だと弱音も生かせるし、細かい部分の面白さや作品の繊細な部分を伝えられる」と経験を語る。

第1回《椿姫》より 写真提供:Hakuju Hall

 田尾下演出は、「音楽から生まれる演出」(青木、園田)。

園田「音楽がそれを求めているというところが出発点です。一つひとつの音の変化やアクセントに表情をつけるから情報量が多くなるのですが、大劇場ではできない緻密な作り方です」

 もう一つの特徴が、原作のエッセンスを取り入れていること。《椿姫》では出演者が背景や人物の説明をしたり、結末がオペラより原作に近かったりした。第2回となる12月の《トスカ》でも、その路線は踏襲されそうだ。《トスカ》の場合、歴史的背景はより重要なので、観客にも歓迎されることだろう。

園田「《トスカ》はプッチーニ作品の中でも一番演劇的、映画的なオペラ。ドラマのテンポが速く、サスペンスの要素もある。完璧で、緻密な作品ですね。ハイライト上演ではなく、プッチーニが描いたドラマをすべて演奏するので、ピアノ1台でプッチーニのオーケストラの世界をどこまで表現できるかワクワクします」

青木「トスカは第1幕は可愛い女性、第2幕ではメラメラとしてきて、大詰めではスカルピアと対決するかっこいい女性になります。一日で感情がクレッシェンドして最後に収斂する。トスカの一生のアップダウンが感じられる役作りをしたい」

 「まっすぐで情熱的な声と音楽性をもつ『ザ・テノール』(青木)」城宏憲、「柔軟で、その場で生まれるエネルギーを掴める才能がある(園田)」大西宇宙との息もぴったりだ。

園田「このシリーズは準備期間が長いので、寝かせる時間があるのがありがたいです。チームの成果は《椿姫》で経験済み。それを踏まえて《トスカ》も読み込んでいける。いいチームだと思います」

 一段と練られた迫真の舞台。手に汗握る体験ができそうだ。
取材・文:加藤浩子
(ぶらあぼ2022年11月号より)

TRAGIC TRILOGY Ⅱ 「トスカ」(全3幕)
2022.12/9(金)15:00 Hakuju Hall
問:Hakuju Hall チケットセンター03-5478-8700 
https://hakujuhall.jp