堀米ゆず子(ヴァイオリン)

世界的デュオが創出する生鮮な音空間

 国際的ヴァイオリニスト、堀米ゆず子は、本年末に鬼才ピアニスト、ヴァレリー・アファナシエフとのデュオ・ツアーを行う。ともにエリザベート王妃国際音楽コンクール優勝者だが、リサイタルでの共演は初となる。

 「1980年代半ばから知ってはいますし、音楽祭の室内楽等で共演したこともあります。それに二人ともブリュッセル在住なので、最近は練習もともにし、話も随分しています。彼のピアノは音の空間が素晴らしい。しかも演奏してみると楽譜に忠実で余計なことは絶対にしません。この点も非常に共感できます。私たちが特に追究しているのはテンポ。すべてが心地よく思ったように運べるか。それに尽きますね」

 今ツアーは、「個展」と題するサントリーホール及び兵庫県立芸術文化センターの公演の前半に置かれた、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータの第3番も大きなポイント。これは2020年に両会場で行った第1、2番の続編となる。

 「3番にはバッハとしても個人的にも特別な意味があります。最初の妻を亡くしたバッハが追悼の意味で書いたのが『シャコンヌ』(パルティータ第2番の終曲)で、ソナタ第3番はお葬式。キリストが十字架を担いで歩むリズムで始まり、長大なフーガ=長いミサ、美しいラルゴ=癒しを経て、速い終楽章で天国に送ってあげるという作品です。そしてパルティータ第3番は天上の踊り。これはフランスから追放された旅芸人がドイツで踊る舞曲でもあります。つまり3番は悲しみからの曲なのです。実はこれ、寺神戸亮さんが言っていたことですが、その通りだと思いました。しかも、去年亡くなった妹の病室で私が最期に弾いてあげたのが、偶然にも3番のソナタでした」

 後半は、シューベルトのソナタD.574(通称「グラン・デュオ」)とブラームスのソナタ第1番「雨の歌」。

 「私はアファナシエフのシューベルトが大好きですし、ブラームスは彼が3曲のソナタの中で『1番が最も壮大だ』と言うので、面白いと思って決めました。グラン・デュオは、古典的な4楽章の中にシューベルトのすべてが入っていて、特に緩徐楽章が素晴らしい。ブラームスの方は自由でファンタジックな音楽。『すべての基本はバスにある。メロディとともにバスを弾いていけば音楽になる』ことを学んだ曲でもあります。エリザベート優勝時に弾いて以来、何度も演奏していますが、毎回違った表現になりますので、今回の共演はとても楽しみです」

 このほか、パルティータ第3番に代わってアファナシエフがシューベルトのピアノ曲を弾く公演があり、彼女は名古屋でメンデルスゾーンの協奏曲も演奏する。いずれにしてもこれは、様々な意味で注目のツアーだ。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年11月号より)

堀米ゆず子 & ヴァレリー・アファナシエフ
2022.12/6(火)19:00 サントリーホール
問:ヒラサ・オフィス03-5727-8830 
https://www.hirasaoffice06.com

他公演
2022.11/24(木) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(愛知室内オーケストラ052-211-9895)
11/25(金) 和歌山城ホール(小)(きのくに音楽祭事務局090-8172-7074)
12/1(木) 福岡シンフォニーホール(092-725-9112)
12/4(日) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール(0798-68-0255)
12/10(土) ミューザ川崎シンフォニーホール(神奈川芸術協会045-453-5080)