金川真弓(ヴァイオリン)

国際派の俊英が真価を示す注目のリサイタル

(c)Kaupo Kikkas

 2018年ロン=ティボー国際音楽コンクール第2位、19年チャイコフスキー国際コンクール第4位入賞以来、内外での活躍が顕著な金川真弓。「ドイツに生まれ、スイス、日本で生活後、小学校〜高校時代をアメリカで過ごし、ベルリンのハンス・アイスラー音楽大学で学んだ」彼女は、その国際的な経歴と相まって、自己表現の豊かさが際立った、細やかで雄弁な音楽を聴かせる。現在ベルリンを拠点に活動中で、コンクールの話題とコロナ禍が重なったここ2年は「代役での協奏曲をはじめ、日本での演奏機会がかなり増えた」との由。そうした中、10月に東京等で、ハンス・アイスラー音大の同窓でもあるピアノのジュゼッペ・グァレーラとともにリサイタルを行う。

 演目は、J.S.バッハの無伴奏ソナタ第3番、武満徹の「妖精の距離」、ドビュッシーのソナタに、ベートーヴェンの「クロイツェル」ソナタ。多彩かつ本格派のプログラムだ。

 「私が好きで、弾いて良さを感じる曲を選びました。西洋の食事のように前菜、主食、デザートがあって、音楽のエネルギーが変化することを考慮したプログラムでもあります。またコロナの時期に見出した曲も入っています。それはバッハのソナタ第3番。これまでバッハの無伴奏曲はあまり弾いてこなかったですし、この曲はバッハの中でも長いフーガが入ったチャレンジングな大作ですが、一人の時間を過ごすなかで勉強し、今回入れようと思いました」

 武満作品への思いも強い。

 「武満さんの曲はピアノ・トリオも弾いて、ほかの楽器でも演奏可能なエッセンスと、この楽器だからこそ意味があるといった部分の両方が効果的に使われているように感じました。それにフランスの影響を受け、メシアンに近いとも言われていますが、一見何も起こっていない、その静けさの中にバラエティがある点は、日本人や仏教の精神に拠るものだと思います。たとえばドイツの音楽は積み木の重なり方に意味を見出しますが、武満さんの曲は瞬間瞬間をどれだけ味わえるかが重要で、そうした精神的状況にいないと弾けない。そこに魅力を感じます」

 ドビュッシーのソナタと「クロイツェル」は、ピアノのグァレーラとの繋がりもあっての選曲だ。

 「武満の後のドビュッシーは自然な流れだと思いますし、このソナタは皆に愛されている愉しい曲。ジュゼッペと一緒に弾くのが凄く好きな作品でもあります。『クロイツェル』は音大時代にジュゼッペと最初に弾いた曲。ヴァイオリンとピアノのためのソナタの中でもスケールが大きく、色々なキャラクターがあって、両楽器の最高の部分を味わうことができる素晴らしい作品です。これは数年弾いていないので、今回演奏するのが楽しみですね」

 むろんグァレーラへの信頼も厚い。

 「大学のデュオのクラスで一緒に弾いて以来、レギュラーで共演しています。出身地のイタリアでもロシア人の先生に習っていて、ロシアン・スクールの良い部分を持っていますし、豊かな歌心と深い音質、自由な音楽の見方が特徴的です」

 今後も目白押しの国内著名楽団との共演も楽しみだが、「先入観なくホール内の時間を楽しんでほしい」と話すこのリサイタルで、真価をじっくり味わってみたい。
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年10月号より)

金川真弓 ヴァイオリン・リサイタル
10/20(木)19:00 東京文化会館(小)
問 パシフィック・コンサート・マネジメント03-3552-3831 
http://www.pacific-concert.co.jp

他公演
10/16(日) みどりアートパーク(横浜市緑区民文化センター)ホール(フィリアホールチケットセンター045-982-9999)
10/22(土) 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール(0798-68-0255)
10/23(日) 稲城市立iプラザ(042-331-1720)