音楽評論家・香原斗志がナビゲート
「北九州国際音楽祭」で極上の「音楽」を楽しみ「北九州」の魅力を発見!

福岡県北九州市を舞台に開催される「2022北九州国際音楽祭」(10/9〜12/3)。今年35回目を迎える同音楽祭は、海外オーケストラや国内外の著名アーティストによる公演を通して、質の高いクラシック音楽の鑑賞機会を提供してきました。
そして、特別編成のオーケストラによるコンサートや、小中学生を対象とした「教育プログラム」など、特色のある企画で次世代育成にも取り組んでおり、北九州市出身の演奏家を数多く輩出しています。
ぶらあぼONLINEの記事では、そんな音楽祭の魅力や今年のプログラムの聴きどころを様々な角度からご紹介。
音楽評論家・歴史評論家である香原斗志さんによるエッセイでは、「音楽祭」と北九州の「街」の魅力を語っていただきます!

文:香原斗志

 関門海峡に面した九州の玄関口、北九州市。大都市ならではの利便性と豊かな自然環境が共存したこの町は、「日本でいちばん住みよい街」を目指しているそうだが、きっとそうなるだろうと思わせるだけのものが、すでにそろっている。

 8107ヘクタールにもおよぶ広大な北九州国定公園は、カルストで有名な美しい平尾台をはじめ、100万都市の近郊にあるとは思えない自然があふれる景勝地。標高622メートルの皿倉山からの眺めは、日本新三大夜景にも選ばれている。また、釣りからマリンスポーツまでさまざまに楽しめる海に恵まれているのはもちろん、街中にも約1700もの都市公園がある。

左:平尾台 右:皿倉山からの風景

 それらの公園のなかには、小倉城を中心とした市のシンボル公演である勝山公園や、印象派に現代アート、そして浮世絵などの充実したコレクションで知られる北九州市立美術館に近い中央公園もふくまれる。自然ばかりか歴史や文化のいろどりが豊かなのだ。関門海峡の「門」である門司港周辺も、海峡の絶景が楽しめるうえ、明治から昭和期のレトロな建築とモダンが溶け合い、魅力的なミュージアムも多い。

左:小倉城 右:門司港駅

 むろん、文化的な豊かさは音楽にも強く向けられている。北九州にはクラシック音楽を鑑賞するのに理想的な720席の北九州市立響ホールがあり、音響もすばらしい。ほかにも勝山公園に近い2008席の北九州ソレイユホールなど、いくつかのすぐれた音空間があり、そこで1988年から毎年秋に開催されている北九州国際音楽祭は、この町の豊かさの象徴だといえる。

北九州市立響ホール

ヨーロッパの音楽祭によく似た環境

 筆者はヨーロッパの音楽祭を訪ねることが多く、そのたびに充実した日々をすごし、帰国したくなくなる。その最大の理由はもちろん、すぐれた音楽を鑑賞できるからだが、音楽だけではこれほどの充足感は得られない。音楽祭の開催都市はいずれも自然が豊かで、歴史があり、街は美しく、音楽以外の文化を楽しむ環境も整い、美味しいものにも囲まれている。だから自然と気持ちが豊かになって、なおさら音楽を深く楽しめる、という好循環が得られるのである。

 北九州は、そんなヨーロッパの音楽祭開催都市によく似ている。歴史があって、自然に恵まれ、文化的な環境が豊かであることはすでに書いたが、食べ物もふぐ料理のほか、ウニやカキなどの海産物が豊富で、絶品のすしも食べられる。ほかにも小倉牛を使った牛肉料理など、美味しいものにも事欠かない。

 音楽を心地よく鑑賞できる環境は、このように申し分ない。では、肝心の音楽祭の中身はどうか。これがきわめて充実している。

上段左より:篠崎史紀(c)井村重人、谷昂登(c)井村重人、倉富亮太
下段左より:佐々木亮(c)Taisuke Yoshida、桑田歩

 今年はまず8月14日、「夏の特別コンサート」が響ホールで開催される。NHK交響楽団第1コンサートマスターで北九州市出身の篠崎史紀と、やはり同市出身で日本音楽コンクールの第1位と聴衆賞を受賞したピアノの谷昂登を中心に、倉冨亮太(ヴァイオリン)、佐々木亮(ヴィオラ)、桑田歩(チェロ)が集い、シューマンらのピアノ五重奏曲を演奏。極上のアンサンブルを聴かせる。

左上:サイモン・ラトル(c)Oliver Helbig 右上:チョ・ソンジン
下段:ロンドン交響楽団(c)Ranald Mackechnie

 その後、10月9日から12月3日まで音楽祭が本格的に繰り広げられる。トップを飾るオープニング・コンサートを北九州ソレイユホールで演奏するのは、円熟味を増す巨匠サー・サイモン・ラトル指揮によるロンドン交響楽団。ラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」のソリストは、第17回ショパン国際ピアノコンクールの優勝者、チョ・ソンジンという豪華さだ。

 ちなみに、地元出身のすぐれたアーティストが参加することも、海外の一流オーケストラを招聘することも、ヨーロッパの音楽祭に近い。それが演奏家と聴き手をそれぞれ育てることにつながるのだ。

東京から新幹線で約4時間半、飛行機で1時間半

 さて、以後は注目すべき演奏会のオンパレードとなる。

 たとえば、11月12日に響ホールで開催される、マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラの演奏会。これはオーディションで選ばれた優秀な若手からなるライジングスター組と、国内主要オーケストラの首席級奏者たちからなるマイスター・アールト組からなるドリーム・オーケストラで、あえて指揮者をおかず、コンサートマスターの篠崎史紀のもと、アンサンブルの力で推進する活力ある演奏が、なんとも魅力的だ。

篠崎史紀(c)井村重人 右:マロオケ(写真提供:2021北九州国際音楽祭)

 11月23日に響ホールで行われる8人のチェリストによる八重奏、「チェロ8」も聴き逃せない。

上段左より:桑田歩、黒川実咲(c)井村重人、笹沼樹(c)Kei Uesugi 、佐山裕樹
下段左より:グレイ理沙、小畠幸法、篠崎由起、北口大輔

 そしてフィナーレ・コンサートは、世界の主要な音楽シーンで活躍するヴァイオリンの庄司紗矢香が登場。その演奏は卓越したテクニックが知性に裏づけられ、さらに深みを増している。これまで数々の共演を重ねてきたジャンルカ・カシオーリのフォルテピアノとともに、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタ第42番をはじめ、記憶に深く刻まれる演奏が聴けるのはまちがいない。フィナーレ・コンサートは、当初予定していた曲目から変更となりました

左:庄司紗矢香(c)Norizumi Kitada 右:ジャンルカ・カシオーリ(c)Matteo_Maso

 そんな北九州。新幹線でも東京から小倉まで5時間足らずで、大阪からなら2時間半前後で着ける。飛行機なら羽田から北九州空港まで1時間半ほどだ。ちょっとした小旅行感覚で、第一級の音楽を中心に最高の文化体験を重ね、自然の懐にも抱かれながら、グルメも味わう。

 本当のぜいたくが詰まっているヨーロッパの音楽祭。それを訪ねるのと同様の豊かな体験をしたければ、この秋、北九州に赴くのがいい。

■夏の特別コンサート
8/14(日)14:00 北九州市立響ホール
■サー・サイモン・ラトル指揮 ロンドン交響楽団 チョ・ソンジン(ピアノ)
10/9(日)15:00 北九州ソレイユホール
■プラネタリウム・コンサート ワーヘリ
10/15(土)15:00 スペースLABO(北九州市科学館)
■サロン・コンサート 岡田奏(ピアノ)安川加壽子生誕100年に寄せてー
11/2(水)14:00 西日本工業倶楽部
■マイスター・アールト×ライジングスター オーケストラ
コンサートマスター:篠崎史紀(N響第1コンサートマスター/北九州市文化大使)

11/12(土)15:00 北九州市立響ホール
■Maroオケ チェロ・セクションによるチェロ八重奏 チェロ8(エイト)
11/23(水・祝)15:00 北九州市立響ホール
■庄司紗矢香(ヴァイオリン) ジャンルカ・カシオーリ(フォルテピアノ)
12/3(土)13:00 北九州市立響ホール

2022北九州国際音楽祭
2022.10/9(日)〜12/3(土) 北九州市立響ホール、北九州ソレイユホール、西日本工業倶楽部 他
問:北九州国際音楽祭事務局093-663-6567
※公演の最新情報は、公式ウェブサイトをご覧ください。