今年創立50周年を迎えた山形交響楽団は、常任指揮者の阪哲朗と、桂冠指揮者の飯森範親(常任指揮者・音楽監督などを歴任)を中心とした、ハイレベルかつユニークな演奏で注目を集めている。小中編成を基本とする澄んだ音色、音楽の喜びにあふれる演奏を体験するために、いまや全国から音楽ファンが集う。延べ300万人が体験したという「スクールコンサート」をはじめとした、地元に密着した活動も大きな柱となっている。公演数は年間150回を超えることもあるというが、そういった活動を成功に導くのは楽団員たち。独自の立ち位置にある山響のいまをどう捉えているのか、首席コンサートマスター犬伏亜里、アシスタント・コンサートマスター平澤海里、トランペット首席の井上直樹の3人に、山響の練習場となっている山形市内の文化施設「文翔館」の一室でインタビューを行った。
犬伏は1996年入団。山響創設者の村川千秋とのつながりがあったという。
犬伏「桐朋学園卒業後にケルンに留学して、そこに村川さんのお嬢さんもいて親しくなり、その後の拠点をドイツか日本かと考えていた時期に山響コンサートマスターのお話をいただきました。それから25年以上になりますが、メンバーはもちろん、指揮者、楽団の体制、山響の認知度が大きく変わりましたね」
平澤は19年入団の4年目。楽団では若手の部類に入るが、山形への思いは深い。
平澤「山響は入団までは関わりはなかったのですが、特別な個性を感じられるオケだと思い、オーディションを受けました。以前はドイツのオケで弾いていましたが、ここ山形は景色も環境も本当に似ています。このきれいな空気から感じられる音が山響にはあります」
古参のひとりである井上は、創立後の黎明期から現在の充実期までを体験してきた。
井上「最初は地元から存在意義を認められず、音楽的にも困難が多く、先が見えない時期もありましたが、飯森範親さんが来てからは緻密に鍛えられて演奏レベルも上がりました。山響は東京をめざすわけではないし、オリジナリティが重要です。例えばブルックナーはオリジナルの編成はそんなに大きいわけではなくて、管楽器が聴こえやすい第1ヴァイオリン10型という山響の編成は適正と思いますし、何より山々を見ながら集まってその空気を感じて演奏することで、他とは全然違うものになります」
話をしていくと、細かいことから積み重ねて構築していく飯森と、瞬間ごとの感興を楽員から引き出して「できるだけ遊びたい」という阪の音楽づくりの対比が興味深い。
犬伏「こだわるポイントがだいぶ違います。飯森さんは細かくそろえるといった基本的なことを作ってくださった。それを活かしつつ、阪さんの求める自在に動かせる音楽みたいなものを作っていきたいし、ずれることを恐れず動かしたり仕掛けたりができ始めている頃かなという感覚もあります」
井上「それぞれの良さがあって、阪さんの良さが活かせるのも、それまで飯森さんが長年かけて重箱の隅をつつくような練習をしてきて、モーツァルト交響曲全曲演奏などで成果をあげてきたからこそだと思います。いまは全然違うスタイルの阪さんの良さ、面白さに対応して活かすことができていると思います」
山響をとりまく変化のスピードはかなりのもののようで、平澤は「僕のいた期間でもはっきり変化を感じるくらいの速さ」と語っている。彼らはポジティブな変化は歓迎しつつ、戒めの気持ちも忘れない。
井上「変化の良い面は平澤さんのような若くて優秀な人が山響に来てくれて、確実にレベルが上がっていること。でも、そういう過渡期をこえた後は、ちょっとあぐらをかいて少しずつ良くない面が出てくることがあるので気をつけたい」
犬伏「50年積み重ねてきたものがあるので、良いものを残しつつ先へ進んでいくのは困難もあるでしょう。年月に対する責任感は忘れてはならず、いまの評価は自分たちのおかげだと思ったら何かが間違っていきます」
平澤「いままで山響のやってきたもの、長く培われてきたことはあります。創設期に入団された方が定年退職される変化の時期でもあり、それをリスペクトしつつ新しいことに対応していく大事な時期にあります」
年間スケジュールのチラシなどに楽員全員の顔写真が掲載されているといった発信の強化もあり、「お客さんから町の中で声をかけてもらうことも多い」という山響の楽員。積み上げてきた半世紀への敬意と新しい時代への意欲を最後に語ってくれた。
平澤「クラシックが生活に近いところにある海外のように、映画館に行くような感じで劇場に行けるようになったらいいですね。今までクラシックを聴いたことない人が、ひとりでも多くコンサート会場に来ていただけたら嬉しいです」
犬伏「この小さな町にオケがあって、それが50年あり続けている。新しいことも伝統として持っているものも大事にしながら、山形にとっての山響ということも大事にしていかなければならないと思います」
井上「今年50周年の山響、会社で言えば中小企業かもしれないけど、ブランド力としての山響プライドみたいなものを継続していきたい。若い人たちに引き継いでもらえるような環境づくりと、自分たちの演奏のプライドというものを大切にして、次の50年に向かいたいと思います」
【山形交響楽団 今後の演奏会】
特別演奏会
鈴木秀美オラトリオシリーズ特別演奏会"真夏の「メサイア」”
~やまぎん県民ホールシリーズVol.3~
2022.8/7(日)14:00 やまぎん県民ホール
指揮:鈴木秀美
ソプラノ:中江早希
カウンターテナー:上杉清仁
テノール:谷口洋介
バス:氷見健一郎
合唱:山響アマデウスコア
ヘンデル:オラトリオ「メサイア」HWV56
問:山響チケットサービス 023-616-6607
https://www.yamakyo.or.jp