GWの金沢にロマン派の音楽が鳴り響く
今年も5月の連休に「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭」が開催される。テーマは「ロマンのしらべ〜金沢が浪漫に染まる〜」。トップレベルのアーティストたちが一堂に会して、金沢の街をクラシック音楽に染める。
文:飯尾洋一
「いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022」のテーマは「ロマンのしらべ〜金沢が浪漫に染まる〜」。シューベルトやシューマン、ブラームス、ショパン、チャイコフスキーなど、ロマン派の作曲家たちを中心として、多彩なプログラムが組まれた。この音楽祭ならではの日本の伝統芸能とのコラボレーションも健在だ。音楽祭の期間は4月28日から5月5日まで。核となる本公演は5月3日から5月5日の3日間にわたり、石川県立音楽堂のコンサートホールと邦楽ホール、金沢市アートホール、北國新聞赤羽ホールを会場として開催される。一公演50分から60分程度の短時間の公演を朝から晩まで集中開催するスタイルで、複数の公演をはしごして楽しむことができる。
今回の大きな特徴は4つのオーケストラが集結する点だろう。地元オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)のほか、東京交響楽団、京都市交響楽団、セントラル愛知交響楽団が招かれる。指揮者陣はユベール・スダーン、クリストフ・コンツ、ミハイル・アグレスト、井上道義、沼尻竜典、田中祐子ほか。スダーンがOEKと東響を、コンツがセントラル愛知響とOEKを指揮するといったように、指揮者とオーケストラのさまざまな組合せを楽しめるところもおもしろい。スダーン指揮東響によるベルリオーズの「幻想交響曲」[C33]や井上道義指揮京響によるブラームスの交響曲第1番[C34]、コンツ指揮OEKによるメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」[C22]など、ロマン派屈指の名曲が並んでいる。ちなみにコンツは指揮者として国際的に活躍すると同時にウィーン・フィルの第2ヴァイオリン首席奏者も務めており、OEKとの共演ではヴァイオリンも披露する。
ソリスト陣も豪華だ。日本を代表するチェリスト、宮田大は得意のエルガーのチェロ協奏曲でコンツ指揮セントラル愛知響と共演する[C21]。スケールの大きな名演を期待したい。名手バリー・ダグラスは田中祐子指揮セントラル愛知響とチャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番を披露[C12]。1986年チャイコフスキー国際コンクールの覇者にふさわしいプログラムだ。日本のベテラン勢の参加も心強い。清水和音は井上道義指揮京響とブラームスのピアノ協奏曲第2番[C32]を、小山実稚恵はスダーン指揮東響とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番[C24]を演奏する。深い感動を残してくれるだろう。
音楽祭ならではの楽しみとして忘れるわけにはいかないのが室内楽。一ヵ所にさまざまな演奏家が集うことで、普段は聴けないアンサンブルが実現する。特に注目したいのは、小山実稚恵とOEK勢のアビゲイル・ヤング、江原千絵(以上ヴァイオリン)、古宮山由里(ヴィオラ)、ルドヴィート・カンタ(チェロ)が共演するシューマンのピアノ五重奏曲[A33]。数あるシューマン作品のなかでも飛び切りの傑作をこのメンバーで聴ける機会は貴重だ。
ほかにもピアノの金子三勇士や舘野泉、ヴァイオリンの川久保賜紀、ソプラノの小林沙羅ら、そうそうたる顔ぶれがそろった。
ユニークなコラボレーションもこの音楽祭の見どころのひとつ。今回も意欲的な公演がとりそろえられている。目をひくのはダンサー、田中泯の出演だ[H23]。鶴見彩のピアノ、坂口昌優のヴァイオリン、般若佳子のヴィオラ、ルドヴィート・カンタのチェロの演奏で、ブラームスのピアノ四重奏曲第3番を踊る。きわめてシリアスな曲調の作品だが、はたしてこの曲からどんなダンスが生まれるのか、まったく想像がつかない。「能舞とクラシック」[H11]では宝生流の渡邊荀之助らの能舞でシューベルトの「ロザムンデ」が舞われる。演奏はガルガン・アンサンブル。シューベルトの世界観にどう能舞が融合するのか。静かなる異種格闘技といった趣だ。
趣向を凝らしたプログラムが待っている。
(ぶらあぼ2022年5月号より)
【information】
いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭2022
会期:4/28(木)~5/5(木・祝)
[本公演]5/3(火・祝)~5/5(木・祝)
会場:石川県立音楽堂、金沢市アートホール、北國新聞赤羽ホール、北陸エリア(福井・石川・富山)
問 いしかわ・金沢 風と緑の楽都音楽祭 実行委員会事務局076-232-8113
https://www.gargan.jp
※本文内の[ ]は公演番号です。各公演の詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。