In memoriam ラドゥ・ルプー

Radu Lupu 1945-2022

 現代を代表するピアニスト、ラドゥ・ルプーが4月17日、スイスのローザンヌで亡くなった。76歳。

©Zdenek Chrapek

 1945年、ルーマニア東部ガラツィ生まれ。1961年に16歳でモスクワ音楽院に入学し、ガリーナ・エギャザロヴァやゲンリヒ・ネイガウスに師事。後にスタニスラフ・ネイガウスに師事した。1966年ヴァン・クライバーン、67年エネスク、69年リーズの3つの国際コンクールを制し、国際的にも知名度を高めた。特に、ヴァン・クライバーンでは、副賞の優勝者ツアーの予定をすべてキャンセルして帰国してしまったというエピソードでも知られる。

 1978年にカラヤンの指揮ベルリン・フィルとの共演でザルツブルク音楽祭にデビュー。同音楽祭やルツェルン音楽祭には、たびたび出演した。そのほか、ウィーン・フィル、ロイヤル・コンセルトヘボウ管など多くの主要楽団と共演している。晩年は、健康面の理由によりコンサートのキャンセルも多かった。最後の来日は2013年。2019年には演奏活動からの引退を発表していた。

©Pekka Saarinen

 DECCAレーベルを中心とした多くの録音で彼の演奏に接したクラシック・ファンも多いだろう。ベートーヴェン、ブラームス、シューベルト、シューマンなど独墺ものを得意とした。1996年には『シューベルト:ピアノ・ソナタ イ長調 D664、同変ロ長調 D960』でグラミー賞を獲得している。1990年代を最後に後年は録音を残さなかった。

 インタビューを受けないというエピソードや、内向的な雰囲気・風貌から、“孤高のピアニスト”というイメージが強いが、その繊細なタッチから生み出される親密な音楽は、静謐な空気をまといつつも、何よりもルプーという人を雄弁に語っていた。昨年、日本で出版された『ラドゥ・ルプーは語らない』(板垣千佳子編/アルテスパブリッシング)は、芸術家の素顔を伝えている。

写真提供:Novellette Artists Management

板垣千佳子編『ラドゥ・ルプーは語らない 沈黙のピアニストをたどる20の素描(デッサン)』(アルテスパブリッシング)
定価:本体2400円[税別]
四六判・上製 | 232頁(内カラー12頁)
発売日 : 2021年11月19日
ISBN 978-4-86559-245-0 C1073