サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン

 「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン(CMG)」が今年も“開園”する。「ブルーローズ」で多彩な作品を楽しめる室内楽の祭典も12回目を迎え、今年は6月4日から19日までの16日間、22公演が予定されている。ここでは4つのトピックスから12公演をご紹介したい。

文:林昌英

◆アトリウム弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル 

 CMGの顔となっているシリーズ「ベートーヴェン・サイクル」は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲を1つの団体が完奏する名物企画。団体ごとに演奏スタイルやプログラムの組み方が違うため、演奏者の個性と作品の魅力を毎年新鮮に楽しめるのである。

 今年の出演はロンドンとボルドーという名門コンクールの両方を制し、20年を超えるキャリアで屈指の人気と実力を誇るロシア発・ベルリン在住の団体、アトリウム弦楽四重奏団。骨太な音色、熱気と繊細さを併せもつ彼らのベートーヴェンは聴き逃がせないし、各回の曲の組み合わせ方が独特で、現代作曲家ボドロフの新作日本初演(6/7)など新機軸もある。実は彼らはベートーヴェン生誕250年の2020年に出演予定だったが、残念ながら実現できなかった。2年の時を経ての6公演、思いを込めて堪能したい。

◆フォルテピアノ・カレイドスコープ 

 およそ200年前に製作されたフォルテピアノの典雅な音色を、ブルーローズで味わう時間。今年は2公演、18〜19世紀に製作された3つの銘器と弦楽器とのアンサンブルで構成されている。公演Ⅰ(6/12)はオリジナル楽器による名アンサンブル、デンハーグピアノ五重奏団が出演。小川加恵のソロによるベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の室内楽版(ラハナー編)と、同世代のアンリ゠ジャン・リジェルの日本初演曲、藤倉大によるソロ・フォルテピアノのための委嘱新曲などという凝った演目を楽しめる。公演Ⅱ(6/15)は、名匠渡邊順生が2つの楽器を弾き分けて、フランスでも活躍する実力者、酒井淳のチェロと共演。オール・ベートーヴェンでチェロ・ソナタ第2番・第3番など、聴きごたえある名曲集を聴かせる。両公演とも往時の響きを瑞々しく味わえる好機となる。

◆クァルテット・インテグラ リサイタル

 サントリーホールは室内楽アカデミーを実施するなど、若手音楽家の育成にも力を入れている。そこで成長した若手たちの演奏が聴けるCMGならではの舞台で、かつ今回屈指の注目公演といえるのが「クァルテット・インテグラ リサイタル」(6/6)。

 クァルテット・インテグラは同アカデミーで4年間の研鑽を積み、その期間中から研ぎ澄まされた高水準の演奏で注目の存在だったが、昨秋にはバルトーク国際コンクール優勝という快挙を成し遂げて室内楽ファンを驚かせた、まさに旬のクァルテットである。彼らにとって“凱旋公演”となるリサイタルは、モーツァルト第15番、デュティユー「夜はかくの如し」、バルトーク第5番という、古典の名作と20世紀のユニークな傑作が並ぶ意欲的なプログラム。特にコンクールでも別格の名演を聴かせたバルトークは注目で、彼らの力量を存分に見せつけてくれるだろう。

◆入門者でも楽しめる「室内楽のしおり」「プレシャス 1pm」

室内楽に興味はあるけどきっかけがなくて…という方にこそお薦めしたい企画を2つご紹介。

 まず、CMG初企画で入門編となる「室内楽のしおり」(6/12)。トーク付き、休憩なし75分のコンサートで、今回は現代のグランドピアノとその祖先となるフォルテピアノの音を、名手たちの演奏で聴き比べられる。演奏者と楽器を身近に体験できるし、デンハーグピアノ五重奏団やサントリーホール室内楽アカデミーの京トリオほか注目の出演者で、贅沢な時間となりそう。

 もうひとつは「プレシャス 1pm」。「ほっと一息くつろげる60分コンサート」をコンセプトに、平日昼の約1時間をトーク付きで楽しめる上に、トップクラスの名手によるこだわりの演目が用意されており、初心者も愛好家も満足できるシリーズである。4公演いずれも注目だが、ここではVol. 2「丁々発止の華麗なる妙技」(6/10)とVol. 3「三味線の室内楽〜フォークロアからの逆襲」(6/14)に注目。Vol. 2はフルート工藤重典、オーボエ吉井瑞穂、ピアノ広瀬悦子という最高の名人たちがそろい、幅広い時代の佳品の数々で、超絶技巧の楽しさと各楽器の魅力が示される。Vol. 3は三味線の本條秀慈郎、尺八の善養寺惠介、ヴィオラ鈴木康浩、チェロ辻本玲というユニークな組み合わせで、やはり最高の名手たちが集う。大作曲家たちの目を通したフォークロアや邦楽の古典、現代作品を交えて、和洋の楽器の邂逅が、古くて新しい世界を作り上げる。

【information】
サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン【一部配信あり】
2022.6/4(土)〜6/19(日) サントリーホール ブルーローズ(小)

【CMGオープニング 堤剛プロデュース 2022】 
2022.6/4(土)18:00
吉田誠(クラリネット)、堤剛(チェロ)、小菅優(ピアノ)

【アトリウム弦楽四重奏団 ベートーヴェン・サイクル】
Ⅰ. 6/5(日)14:00 Ⅱ. 6/7(火)19:00 Ⅲ. 6/9(木)19:00 Ⅳ. 6/11(土)17:00 Ⅴ. 6/13(月)19:00 Ⅵ. 6/16(木)19:00

【クァルテット・インテグラ リサイタル】 
6/6(月)19:00

【プレシャス 1pm】
Vol. 1 北国からのソナタ 
6/7(火)13:00~14:00
小山実稚恵(ピアノ)、堤剛(チェロ)
Vol. 2 丁々発止の華麗なる妙技 
6/10(金)13:00~14:00
工藤重典(フルート)、吉井瑞穂(オーボエ)、広瀬悦子(ピアノ)
Vol. 3 三味線の室内楽 〜フォークロアからの逆襲 
6/14(火)13:00~14:00
本條秀慈郎(三味線)、善養寺惠介(尺八)、鈴木康浩(ヴィオラ)、辻本玲(チェロ)
Vol. 4 第一人者たちの交歓 
6/17(金)13:00~14:00
吉野直子(ハープ)、ラデク・バボラーク(ホルン)

【葵トリオ ピアノ三重奏の世界 ~7年プロジェクト第2回】 
6/8(水)19:00

【アジアンサンブル@TOKYO】 
6/10(金)19:00
ソヌ・イェゴン(ピアノ)、郷古廉、東亮汰(以上ヴァイオリン)、田原綾子(ヴィオラ)、横坂源(チェロ)

【ENJOY! 室内楽アカデミー・フェロー演奏会】 
Ⅰ. 6/11(土) Ⅱ. 6/18(土) 第6期修了コンサート(6/18のみ) 各日11:00
クァルテット・インテグラ、レグルス・クァルテット 他

【室内楽のしおり ~ピアノと弦楽器のアンサンブル】 
6/12(日)11:00
デンハーグピアノ五重奏団、京トリオ、山本周(ヴィオラ)

【フォルテピアノ・カレイドスコープ】
Ⅰ.6/12(日)18:00 デンハーグピアノ五重奏団 
Ⅱ. 6/15(水)19:00 渡邊順生(フォルテピアノ)、酒井淳(チェロ)

【ラデク・バボラークの個展】
6/18(土)19:00
ラデク・バボラーク(ホルン)、菊池洋子(ピアノ)、アトリウム弦楽四重奏団、福川伸陽、今井仁志、石山直城(以上ホルン)

【CMGフィナーレ 2022】 
6/19(日)14:00
池田菊衛、原田幸一郎(以上ヴァイオリン)、磯村和英(ヴィオラ)、毛利伯郎(チェロ)、練木繁夫(ピアノ) 他

問:サントリーホールチケットセンター0570-55-0017(10:00~18:00、休館日を除く) https://suntoryhall.pia.jp
※2022.4/4(月)~5/2(月)の改修工事期間中、チケットセンターの電話・WEBは通常通り営業、窓口のみ休業。また5/2(月)は休館日のため電話・窓口は休業。
※「CMGオンライン 2022」として7公演に限り有料ライブ配信を行います(リピート配信あり)。7公演セット券:3,500円(1公演あたり500円)もあり。
5/10(火)10:00発売。視聴券の購入については下記QRコードの特集ページでご確認ください。

CMG 2022 特集ページ