鈴木秀美(神戸市室内管弦楽団音楽監督)

古典派を中心に多彩なサウンドを味わえる新シーズン

 2021年に40周年を迎えた神戸市室内管弦楽団(KCCO)が、新シーズンをスタートさせる。「楽員と私の間で様々な時代・ジャンルへの『共通の言葉』を増やし、自発的な演奏を創りたい」と語るのは、音楽監督2年目を迎える鈴木秀美。「2管編成を基本とする以上、古典派を中心とすることに変わりはない」としつつも時に近現代の作品も取り上げて、「その向こうにバロックなど前の時代が透けて見えるような感覚を楽しんでいただきたい」と、多層的な音楽づくりを目指す。

 「神戸だったから」。この街で生まれ育ち、KCCOの創立メンバーでもあった鈴木は、シェフのオファーを受けた理由を、この一言で説明する。

 「私にとって、神戸は常に“帰って来る”場所。かたや、『古典派』は長くみてもせいぜい80年。しかしその間に書かれた作品は質量ともに膨大です。そこを軸にする団体があってもいいじゃないかと、私はオーケストラ・リベラ・クラシカを創り、そこで経験したことは他の楽団を振る時に役に立った。そして、それらの経験すべてが、神戸で生かせると考えています」

 神戸文化ホールでの定期演奏会は4回。鈴木はそのうち3公演で指揮台に立つ。新シーズンのスタートとなる4月の定期には、あまりプログラムに上がることのない、シューベルトの交響曲第1番を入れた(4/23)。 

 「すぐ頭に浮かぶ彼の交響曲と言えば、第5番と『未完成』『ザ・グレイト』くらいでしょう。しかし、そこだけしか見ないのは、あまりに作曲家に失礼。第1番のスコアを見た時ハイドンに似ていると思い、さらに読んでいると『彼にしか書けない旋律だ』と感じ…読むたび、聴くたびに色々な面が見えてくるのも、音楽の面白いところです」

 10月の定期では川口成彦のフォルテピアノ(1820年製グレーバー)とショパンの協奏曲を予定(10/1)。「川口君は藝大で僕の授業にも出てくれていましたから、以前からよく知っていますが、舞台での共演は初めて。彼は色々な蓄積を今、開花させているところ。とても楽しみですね」。そして、KCCOは昨年からナチュラルの金管楽器や古いタイプのティンパニを導入。「それらの楽器はそれ自体の音色が違うだけでなく、一緒に弾いている奏者たちの音も自然に変わる。サウンド全体に影響してくるんです」。

 また6月には「運命」「ジュピター」など王道のプログラムを携え、初の大阪特別演奏会を住友生命いずみホールで開く(6/18)。「こんなオーケストラが神戸にある」と発信することも必要だと考えた。それに、「響きの良いホールで弾く感触は奏者すべての宝物にもなります」。来年2月の定期ではモーツァルトにシュニトケ、プロコフィエフを組み合わせる(2023.2/11)。 「古典派の曲目の中に、例えば20世紀ロシアの作品が入っていると、そこを透かして、その前の時代を見ていけるのでは。そんな感覚を、楽しんでいただけたら…」。

 そして、将来的には「まずは、オペラを舞台で(演奏会形式ではなく)やりたい」と鈴木。「“室内楽団”の将来は、一体どこにあるのか。諸条件から難しい点も多々あるでしょうが、やはり2管編成を基本とするならば、常に“古典派をベース”にするということが大事です。そうすると、近現代の作品に“出かけて行って”も、それが役に立ってくる。来年2月のプロコフィエフは、まさにそんな姿勢をチラッとお見せしている(笑)感覚になるでしょうね」。熱っぽく語った。
取材・文:寺西肇
(ぶらあぼ2022年5月号より)

問:神戸市民文化振興財団078-361-7241 
https://www.kobe-ensou.jp
※2022年度シーズンプログラムの詳細は上記ウェブサイトでご確認ください。