文:柴田克彦
圧巻のパフォーマンスをみせた2021年
2022年の「東京・春・音楽祭」の幕開けを飾る「リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ」は、大注目のコンサートだ。
昨年の同音楽祭における東京春祭オーケストラのパフォーマンスは圧巻だった。巨匠ムーティの指揮のもと、まずはヴェルディの歌劇《マクベス》で驚愕の名演を展開。濃密な響きで雄弁な音楽を奏で、聴く者を感嘆させた(ちなみに当公演は『音楽の友』誌の年間コンサート・ベストテンで断然の1位を獲得した)。おつぎは同じくムーティ指揮による「オーケストラ・コンサート」。演目はモーツァルトの「ハフナー」「ジュピター」両交響曲である。ここで彼らは、豊麗かつ柔らかな響きで悠揚たる音楽を奏でた。アンサンブルの精度も高く、特にデリケートな弱音が見事。モダン楽器の良さが生きた豊穣なモーツァルトを堪能させた。
国内主要オケの首席奏者らで特別編成
東京春祭オーケストラは、当音楽祭のために特別に編成された楽団。全国の主要オーケストラのメンバーやソリストなど、内外で活躍する日本の若手演奏家によって構成されている。昨年の例を挙げると、ヴァイオリンには、長原幸太(読響コンサートマスター)をはじめ各楽団のコンサートマスター5人に多数のソリストが並び、他の楽器も大半のパートに著名楽団の首席奏者が参加するなど、顔ぶれは実に豪華。ただし、こうした臨時編成の団体がまとまったサウンドを生み出すのは難しい。ところが彼らは、個々の名技を融合させて、均質性の高い響きと音色や統一感のある表現を成就した。その点は奇跡的と言うほかない。
むろんこれはムーティの存在、なかでも2019年にヴェルディ《リゴレット》、21年に《マクベス》を取り上げた「イタリア・オペラ・アカデミー in 東京」におけるその(厳しいと評判の)指導によるところが大きい。マエストロの的確な指示と、精一杯応えようとする敏腕メンバーたちの長期に亘る練磨が、サウンドと音楽に驚異的な豊かさと一体感をもたらしているのだ。メンバーたちはムーティの指揮で演奏できることへの喜びに溢れているし、ムーティも彼らに厚い信頼を寄せている。何しろ昨年のオーケストラ・コンサートは、「オペラ以外でも彼らとじっくり向き合いたい」と望むムーティから急遽提案されたとのこと。この事実が佳き関係を物語っている。
「ムーティで聴きたい」作品が並ぶ
そうした中で再び実現したのが、今年のオーケストラ・コンサートである。今回はアカデミーが開催されないので、ムーティはその2公演のためだけに来日する。それがまず貴重な上に、プログラムにも「ムーティで聴きたい」作品が並んでいる。
前半のモーツァルトの交響曲第39番はもちろん昨年の名演の続編となる。モーツァルトの交響曲の中でも明朗・快活なこの曲は、ムーティの持ち味にピッタリ。優美にしてしなやかに弾むニュアンス豊かな音楽が、無類の幸福感をもたらしてくれるに違いない。
後半は、ムーティお得意のシューベルト。昨年日本でもウィーン・フィルとの「悲劇的」「グレイト」両交響曲で魅せたマエストロだが、今回はその際になかった「未完成」交響曲を聴かせてくれる点が嬉しい。シューベルトならではの歌と壮麗な響きが横溢したこの名曲を、当コンビがいかに表現するのか? お馴染みの曲だけに、彼らの特長をフルに感じることができるだろう。そして「イタリア風序曲 ハ長調」は稀少な生演奏となる。若き日に書かれた同曲は、当時ウィーンで流行していたロッシーニのテイストが取り入れられており、「イタリア風」の題名からもムーティに相応しいのは明らか。それに何より、この曲を彼クラスの指揮で体験する機会は今回が最初で最後かもしれない。
世界的巨匠と奇跡的オーケストラによる本公演、文句なしに必聴だ。
【Information】
■リッカルド・ムーティ指揮 東京春祭オーケストラ
2022.3/18(金)19:00 東京文化会館
2022.3/19(土)19:00 すみだトリフォニーホール
●出演
指揮:リッカルド・ムーティ
管弦楽:東京春祭オーケストラ
●曲目
モーツァルト:交響曲 第39番 変ホ長調 K.543
シューベルト:交響曲 第8番 ロ短調 D759《未完成》、イタリア風序曲 ハ長調 D591
●料金
S席¥16,000 A席¥13,000 B席¥10,000 C席¥8,000 D席¥5,000 U-25¥2,500
ライブ・ストリーミング配信¥1,100
【来場チケット販売窓口】
●東京・春・音楽祭オンライン・チケットサービス(web。要会員登録(無料))
https://www.tokyo-harusai.com/ticket_general/
●東京文化会館チケットサービス(電話・窓口)
TEL:03-5685-0650(オペレーター)