古楽界の巨匠と築く新時代はオール・モーツァルトで幕開け
紀尾井ホール室内管弦楽団(KCO)が、新時代を迎える。楽団の気風を作った尾高忠明、そこにウィーンの香りを吹き込んだライナー・ホーネックからバトンを受け継ぎ、新しい船出を先導する第3代首席指揮者は、古楽演奏の第一人者トレヴァー・ピノック。新しい航路を果敢に切り開いてくれる頼もしい船長だ。
就任披露となる4月の定期は3つの交響曲を並べたオール・モーツァルト・プログラム。まずは、ウィーンと並び一大音楽都市だったパリの名門オーケストラの依頼で書かれた第31番「パリ」。マンハイムで流行した新しいスタイルやパリのギャラント様式を取り入れた当時としては大編成の交響曲だ。短いながらも、華やぎに満ちた内容を持つ。
続いて第35番「ハフナー」。こちらは出身地であるザルツブルクの貴族の依頼で書かれたセレナードを元に、後年ウィーンで交響曲として編み直したものだ。広い音程の跳躍で始まる堂々とした第1楽章をはじめ、耳をそばだててしまう美しい旋律にあふれている。
最後を飾るのは晩年の三大交響曲から第39番。古典派交響曲の完成形ともいうべき貫禄の大曲だ。ピノックはこの曲をKCOと2012年にも取り上げており、10年の歳月を経てどのように深化するか興味深い。
ザルツブルク、マンハイム、パリ、そしてウィーン。モーツァルトが各地を旅する中から生まれたこれらの交響曲には、18世紀の国際感覚が息づいている。KCOがホーネックを通じて音楽の“ウィーン訛り”を身に着けたとすれば、ピノックはそこに時代の奥行きを付け加えてくれるだろう。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2022年3月号より)
※当公演は、トレヴァー・ピノック氏急病のため、出演者とプログラムの一部を変更して開催します。
指揮:トレヴァー・ピノック → ジョナサン・コーエン
ヴァイオリン独奏:青木尚佳
曲目
モーツァルト:歌劇《ドン・ジョヴァンニ》K.527~序曲
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調 K.543
詳細は下記ウェブサイトでご確認ください。(3/17主催者発表)
第130回 定期演奏会
2022.4/22(金)19:00、4/23(土)14:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールウェブチケット webticket@kioi-hall.or.jp
https://kioihall.jp