兵庫県立芸術文化センター「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」で7月に上演
開館以来、多彩な作品を取り上げてきた兵庫県立芸術文化センターの「佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ」。今年は、新型コロナウイルスの影響により2020年から延期となったプッチーニのオペラ《ラ・ボエーム》を、2年前と同じキャストとスタッフが国内外から集結し上演する。
7月の公演に先立ち、2月25日、芸術文化センターにて記者会見が行われ、芸術監督・指揮者の佐渡裕、スポーツ・音楽評論家の玉木正之が登壇した。
このシリーズで17年にわたってさまざまなオペラを手がけてきた佐渡だが、《ラ・ボエーム》を指揮するのは今回が初めて。これまでの歩みを振り返りつつ、佐渡と玉木が対談形式で本作の魅力について語った。
佐渡「2006年の《蝶々夫人》、2012年の《トスカ》に続いて3作目のプッチーニ作品。《ラ・ボエーム》だけに当てはまることではないのですが、プッチーニは音楽が圧倒的に素晴らしい。特に第3幕では、凍てつくような音によって病気を患い残りわずかな命しか残されていないミミを寒々しく表現する。台詞だけのお芝居であれば、決してドラマティックではないところを、大編成のオーケストラが鳴り響くと、音楽によって脚本の中の感情が何十倍にも膨らんでいくのです」
玉木「この作品は恋と青春がテーマで、夢に生きる6人の若者たちが登場しますが、きっと誰もがどこかで知っている時代、自分の中に思い出として持っているような経験ではないでしょうか。1830年代のパリが舞台となっていますが、現代に置き換えて考えてみてもおかしくない」
今回は、映画美術における世界的デザイナー・美術家、ダンテ・フェレッティを起用した演出にも注目が集まる。オリジナルは登場人物たちの住まいはパリの小さなアパートの屋根裏部屋という設定だが、フェレッティによる演出ではセーヌ川に浮かぶ船が舞台となる。
佐渡「私は、パリに17年住んでいましたが、セーヌ川の小さな船で生活している人も多くいましたね」
玉木「アトリエ、仕事場として若者が集まって、絵を描き、詩を書き、哲学について考え…。自分たちの隠れ家のようで、ボヘミアンとしては良い住処ですね。東京でも、1960年頃までは隅田川の船の上で暮らしている人たちがいました」
フェレッティは、イタリアでゼッフィレッリやフェリーニのもと映画美術を手がけた後、ハリウッドに進出。米国アカデミー賞美術賞受賞作「アビエイター」「ヒューゴの不思議な発明」(監督:マーティン・スコセッシ)、「スウィーニー・トッド」(監督:ティム・バートン)といった多数の映画作品の美術に携わってきた。オペラの分野では、ミラノ・スカラ座でリリアーナ・カヴァーニ演出《椿姫》の装置デザインを担当するなど世界的に評価が高い。
玉木「ミミという人物像は、長らく純情で弱々しい女性のイメージが定着していましたが、最近はミミ役に対する捉え方が変わってきましたね。そういった青春像をフェレッティさんがどう演出なさるのか楽しみです。オペラは、台詞や歌を変えずに演出によって現代風にガラリと変わっていくのが面白いところです」
今回の全8公演はダブルキャストで組まれ、海外組はミラノでオーディションを行い、フランチェスカ・マンツォ、ソフィア・ムケドリシュヴィリら、ミラノ・スカラ座アカデミー出身の歌手たちが初来日する。国内組には、ミミ役の砂川涼子、ロドルフォ役の笛田博昭をはじめ、髙田智宏、平野和といった数々のオペラ作品で活躍する歌手を配役。
佐渡「延期が決まった2年前、『必ず兵庫で会おうね』と約束したメンバーたちが兵庫に来てくれます。キャストもスタッフもみんな高いモチベーションで取り組んでいますので、感染予防も十分に注意を払いながら作りあげていきたいです。プッチーニがオーケストラに与えていること、歌手たちに与えていることは、まさに天才の証明だと思っています。この作品は、台詞は長くはないけれど、寒さや病気、また喜びや切なさといった感情が、プッチーニの手腕によって何倍ものスケールとなって表現されていて、大きな感動があります。劇場に足を運んで《ラ・ボエーム》のようなグランドオペラにどっぷりと浸かると、目の前の空気が振動していることを実感するでしょう」
夢に向かって生きる若い芸術家たちの物語が、佐渡のタクトとアカデミー賞デザイナーの演出によってどう作り上げていくのか。この夏、見逃せない公演が兵庫にやってくる。
会見の最後には、ロシアのウクライナ軍事侵攻にも話が及んだ。
佐渡「今回のキャストはインターナショナルで、オーケストラも世界各地から集まっています。ロシアやウクライナの友達もいます。犠牲者がでないことを心から願っています。どんな状況においても、音楽をするのが僕ら音楽家の仕事であり、音楽を発進していきたいと思います」
玉木「本来ならば、今はオリンピック・パラリンピック停戦期間中のはずです。戦争が起きているからといって何もせず止まってしまっては、何も生まれません。ショスタコーヴィチが交響曲『レニングラード』を第二次世界大戦中の緊迫した時代に作曲したように、どんな状況でもスポーツや芸術文化を発信していくことに意味があると思っています」
【Information】
佐渡裕芸術監督プロデュースオペラ 2022
歌劇《ラ・ボエーム》(作曲:プッチーニ)
(全4幕/イタリア語上演・日本語字幕付/新制作)
指揮:佐渡裕
演出:ダンテ・フェレッティ(装置・衣裳デザイン)
管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団
合唱:ひょうごプロデュース合唱団、ひょうご「ラ・ボエーム」合唱団、ひょうごプロデュースオペラ児童合唱団
出演
ミミ:フランチェスカ・マンツォ★ 砂川涼子☆
ロドルフォ:リッカルド・デッラ・シュッカ★ 笛田博昭☆
ムゼッタ:エヴァ・トラーチュ★ ソフィア・ムケドリシュヴィリ☆
マルチェッロ:グスターボ・カスティーリョ★ 髙田智宏☆
ショナール:パオロ・イングラショッタ★ 町英和☆
コッリーネ:エウゲニオ・ディ・リエート★ 平野和☆
べノア/アルチンドーロ:ロッコ・カヴァッルッツィ★ 片桐直樹☆
パルピニョール:清原邦仁★ 水口健次☆
★7/15, 17, 20, 23 ☆7/16, 18, 21, 24
2022.7/15(金)、 7/16(土)、7/17(日)、7/18(月・祝)、7/20(水)、7/21(木)、7/23(土)、7/24(日)
各日 14:00 兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
問 芸術文化センターチケットオフィス0798-68-0255
兵庫県立芸術文化センター
https://www1.gcenter-hyogo.jp