沼尻竜典(指揮) 東京交響楽団

ラヴェルを輝かせる精緻なコラボレーション

 東京交響楽団の3月定期、沼尻竜典指揮の「オール・ラヴェル・プログラム」は様々な意味で注目の公演だ。沼尻は内外の楽団と歌劇場双方で活躍する、分析力に優れた実力者。2007年から芸術監督を務めるびわ湖ホールでは、配信で絶賛を博した20年の《神々の黄昏》をはじめ、多大な成果を挙げている。かたや東響も音楽監督ジョナサン・ノットの先導で絶好調。特に昨年12月定期のルトスワフスキ「管弦楽のための協奏曲」の鮮烈な快演は、機能性と精度の驚異的な高さを実感させた。

 今回は演目がラヴェル、しかも組曲「マ・メール・ロワ」、歌曲集「シェエラザード」、「ダフニスとクロエ」(全曲)という精緻な名作揃いである点が期待を倍化させる。沼尻は桐朋学園時代に三善晃のもとで近代フランス和声の理論を身に付けたとの由。なかでも「ダフニスとクロエ」は、かつて鍵盤楽器奏者として参加したシャルル・デュトワやガリー・ベルティーニ指揮のN響公演で極意を学び、優勝したブザンソン国際指揮者コンクールの本選やN響デビュー公演でも指揮した、いわば“ベスト演目”だ。東響も精緻さにかけては日本屈指。とりわけ木管セクションが充実しているだけに、それらが重要な働きをする今回の3曲は最適の作品と言っていい。

 また「シェエラザード」を歌う中村恵理は、09年、英国ロイヤル・オペラにおけるアンナ・ネトレプコの代役で脚光を浴びた後、バイエルン国立歌劇場の専属歌手を務めるなど世界の第一線で活躍してきた名ソプラノ。豊かさと繊細さを兼備した声と表現力が楽曲を光らせるに違いない。

 本公演はすべてに精妙なリリシズムを堪能できる稀有の機会となる。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2022年2月号より)

第698回 定期演奏会 
2022.3/12(土)18:00 サントリーホール
問:TOKYO SYMPHONY チケットセンター044-520-1511 
https://tokyosymphony.jp