INTERVIEW 三ツ橋敬子(指揮)

神奈川県民ホール「ファンタスティック・ガラコンサート」に初登場!

取材・文:原典子

 神奈川県民ホールの年末といえば、毎年恒例の「ファンタスティック・ガラコンサート」。オーケストラ作品からオペラ・アリア、バレエまで、一度のコンサートですべて楽しめるという贅沢このうえない企画である。16回目を迎える今回は、長年にわたり指揮を務めていた松尾葉子(2020年は太田弦)から三ツ橋敬子にバトンタッチ。神奈川フィルハーモニー管弦楽団、豪華な歌手陣、バレエ・ダンサーたちとともにドラマティックなひとときを届ける。コンサートへの意気込みや、プログラムの聴きどころを三ツ橋に聞いた。

三ツ橋敬子(c)Earl Ross

「神奈川フィルとは、神奈川県立音楽堂の親子向け公演『三ツ橋敬子の夏休みオーケストラ!』を2016年からご一緒していました。それが5年という区切りで終わり、今年の『ファンタスティック・ガラコンサート』へとつながっていったという流れです。ちょうど私の師匠である松尾先生から引き継ぐ形になりました」

 三ツ橋がホールのスタッフとともに考えた「ファンタスティック・ガラコンサート」のプログラムは、「愛」をテーマにした名曲たちで編まれている。

「人と人との物理的距離が離れたコロナ禍の1年間だったからこそのテーマですね。男女の愛に限らず家族の愛、友情の愛、さまざまな愛がありますが、人と人とのつながりの原点として、愛というのは普遍的なテーマかなと。具体的にはコンサートの前半と後半、どちらにもオーケストラ、オペラ、バレエという3本柱が入るように配置して、そのなかでストーリー性を感じられるよう、関連性を持たせながら組んでいきました」

 どのようなストーリーを見せてくれるのだろう?

「たとえば、今回はバレエでチャイコフスキーの『眠れる森の美女』からの一場面を踊っていただくことになったので、その幕開けとしてオーケストラで〈序奏とリラの精〉を演奏することにしました。ほかにも、ニーノ・ロータによる映画『ロミオとジュリエット』の〈愛のテーマ〉から、R.シュトラウスの交響的幻想曲『イタリアから』へと流れを作ったり。『ロミオとジュリエット』の舞台はイタリアのヴェローナで、『イタリアから』の第4楽章のテーマはナポリなので、イタリアを北から南へと下っていくイメージです。また、『ロミオとジュリエット』といえば、グノーのオペラからのアリアも入れました」

左より:上野水香、宮本益光、石田泰尚(昨年度舞台写真)(c)Kiyonori Hasegawa

 オーケストラ、オペラ、バレエをコーナーごとに分けて演奏するのではなく、交互に並べることで見えてくることもある。

「プッチーニの『交響的奇想曲』は学生時代に書かれた習作で、彼自身は世に出ることを嫌っていたそうですが、この作品のなかに出てくるテーマは、のちにオペラ《ラ・ボエーム》の冒頭に転用されたという経緯があります。私は以前から『交響的奇想曲』は素晴らしい作品だと思って何度も取り上げてきましたが、今回は《ラ・ボエーム》と並べて演奏することで、ひとりの作曲家の人生と時の流れ、そこに脈々と流れるプッチーニの音楽のコアを感じていただけるのではないでしょうか」

 《ラ・ボエーム》からは4曲が、4人の歌手によって歌われる。ソプラノの高橋維と伊藤晴という注目の若手ふたり、テノールの村上公太とバリトンの宮本益光というベテランふたりという組み合わせで聴けるのも貴重だ。

左より:高橋維(c)Ryuji Tokuda、伊藤晴(c)Katsuhiko Kimura、村上公太、宮本益光

 「いろいろなオペラから有名なアリアを1曲ずつ持ってくるのではなく、《ラ・ボエーム》からの4曲をハイライト的に演奏することで、全幕ではないものの、歌手の皆さんにはストーリーを感じながら、いわゆる演奏会形式のオペラに近いような感覚で歌っていただけるのではないかと思います」

 オペラといえば、マイアベーアの《ディノーラ》やマスネの《エロディアード》といった、普段はなかなか上演される機会の少ない作品からのアリアにも注目したい。それにしても、オーケストラ、オペラ、バレエが次々に転換していく舞台をまとめ上げる指揮者の大変さはいかばかりだろうか。

「オペラを振っていると、バレエの場面や、オーケストラだけの場面もあるので、切り替えに関してはそれほど大変とは感じません。ただ、今回のようにスタイルの違う作曲家の作品を次々演奏していくという点においては、それぞれの場面に合った音作りをしていく必要があります。世界観も変わりますし、音の重ね方も変わりますから、神奈川フィルとのやり取りのなかで作っていければと。若い団員さんも多く、“ああしよう、こうしよう”といった提案をとても前向きにとらえてくださるポテンシャルの高いオーケストラなので、今からとても楽しみにしているところです」

 『ぶらあぼ』読者の皆さんは、日常的にクラシックのコンサートに行く方が多いと思うが、たまにはご家族や友人を誘ってみるのはいかがだろう? これまでクラシックを聴いたことがない人にとっても、きっと素敵な思い出になるに違いない。

「コロナ禍で家にいる時間が増えたこの2年、テレビでたまたま目にしたクラシックやバレエに興味を持たれた方などもいらっしゃると思います。まるで“大人のお子様ランチ”のように美味しいところが少しずつたくさん詰まったコンサートなので、そういった方々がクラシックに親しむ後押しになったらいいなと思います。キラキラしたイルミネーションの輝く横浜の街にぴったりのプログラムですので、ぜひお出かけください」

昨年度舞台写真(c)Kiyonori Hasegawa

【information】
神奈川県民ホール 年末年越スペシャル
ファンタスティック・ガラコンサート2021
〜美に酔い、心ふれあう 至福のひととき〜

2021.12/29(水)15:00 神奈川県民ホール

指揮:三ツ橋敬子
司会・バリトン:宮本益光
ソプラノ:高橋維、伊藤晴
テノール:村上公太
バレエ:上野水香(東京バレエ団 プリンシパル)、厚地康雄(英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団 プリンシパル)、ブラウリオ・アルバレス(東京バレエ団 ソリスト)
ヴァイオリン/首席ソロ・コンサートマスター:石田泰尚
ピアノ:中島剛
管弦楽:神奈川フィルハーモニー管弦楽団

■オーケストラ
チャイコフスキー:バレエ音楽「眠れる森の美女」より 序奏とリラの精
プッチーニ:交響的奇想曲
ニーノ・ロータ:映画「ロミオとジュリエット」より 愛のテーマ
R.シュトラウス:交響的幻想曲「イタリアから」より 第4楽章

■オペラ
プッチーニ:オペラ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」(村上公太)~「私の名はミミ」(伊藤晴)~「私が街を歩くと」(高橋維)~「さようなら、朝の甘い目覚めよ」(第3幕四重唱/伊藤晴、高橋維、村上公太、宮本益光)
グノー:オペラ『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」(伊藤晴)
ビゼー:オペラ『カルメン』より「花の歌」(村上公太)
マイアベーア:オペラ『ディノーラ』より「軽やかな影(影の歌)」(高橋維)
マスネ:オペラ『エロディア―ド』より「はかない幻」(宮本益光)

■バレエ
チャイコフスキー:バレエ『眠れる森の美女』より グラン・パ・ド・ドゥ(上野水香/厚地康雄)
ロシア民謡:黒い瞳(上野水香/ブラウリオ・アルバレス/石田泰尚/中島剛)

■石田泰尚×門脇大樹(神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席チェロ奏者)スペシャルDuo
ヘンデル(ハルヴォルセン編曲):パッサカリア
※曲順不同

問:チケットかながわ0570-015-415
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/