宮本益光(バリトン)

新録音は《フィガロ》、モーツァルト・オペラ全曲録音進行中!

(c)Tomoko Hidaki

 2018年1月27日、モーツァルトの誕生日に生まれたオペラ歌手とコレペティートルによる団体、モーツァルト・シンガーズ・ジャパン(以下MSJ)。モーツァルトのオペラ全曲録音を目指すMSJが、この10月に《フィガロの結婚》のCDをリリース、めでたく「ダ・ポンテ三部作」が出揃った。「残り18作をあと10年で完結させる予定なんです」と語るMSJのリーダー宮本益光は、発足からの3年間で確かな手応えをつかんでいるようだ。

 「参加してくれているメンバーは、みんなその役をレパートリーとしている人ばかりですが、毎回、楽譜を改めて見直し、言語表現から発音までお互いに話し合いながら取り組みました。今回の《フィガロの結婚》では日本を代表するディーヴァ澤畑恵美さんに伯爵夫人を歌っていただきましたが、モーツァルト作品を知り尽くしているはずの澤畑さんが我々の音楽的解釈や提案を真っ向から受け止め、それを体現してくださる様を見て、大いに学ぶところがありました」

 MSJの特徴は、ピアノ伴奏でオペラ全曲を録音する、というところにあるが、DVDや動画配信が全盛の今、敢えて“録音”にこだわっている理由は何なのだろうか。

 「それは私たちが音楽家だからです。作品にすべてが書いてあり、音でそのすべてを表出することは音楽家にしかできない。なぜ指揮者をおかないのか、なぜオーケストラではないのか、とよく聞かれるのですが、歌い手はまず一人でピアノの前に座って練習を始め、仲間たちとピアノでアンサンブルを練習する。そこまでが声楽家の世界であり、そこを磨かないと舞台には立てないんです。もちろんその後は指揮者や演出家に導かれていきますが、むしろ彼らに刺激を与えるような声楽家の集団である必要があるとさえ思う。ピアノ伴奏で歌に特化したものを残す意味はそこにあります」

 宮本は音楽家というものを「常に前向きな否定と肯定を繰り返している存在」と語る。今日の演奏に満足しながら、明日はもっといい演奏をしたいと思う人たち。音楽家の、芸術家の存在意義はそこにあるのだ、と。MSJの録音を聴いていて、指揮者やオケがいればという思いになることがまったくないのも、彼らがそうした“本物の芸術家”だからなのだろう。

 宮本はこのあと来年2月に東京でMSJによる《ドン・ジョヴァンニ》タイトルロール、3月には愛知で角田綱亮指揮セントラル愛知交響楽団との《コジ・ファン・トゥッテ》にグリエルモでの出演が控えている。宮本益光のモーツァルトの世界は、まだまだ広がっていきそうだ。
取材・文:室田尚子
(ぶらあぼ2021年12月号より)

モーツァルト・シンガーズ・ジャパン Vol.3 《ドン・ジョヴァンニ》(ハイライト/字幕付)
2022.2/18(金)19:00 王子ホール
問:王子ホールチケットセンター03-3567-9990 
https://www.mozartsingersjapan.com

コンサート形式による・歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》K.588
2022.3/11 (金) 18:30 愛知/刈谷市総合文化センター
問:セントラル愛知交響楽団052-581-3851 
http://www.caso.jp

SACD『モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》』
オクタヴィア・レコード
OVCL-00762(3枚組) ¥5500(税込)