音楽が持っているワクワクする感覚、そして何より演奏している「人」が大事
2020年7月。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、国内ではまだコンサートが本格的に再開されていなかった。そんな状況のなか、全17公演の生音+生配信(有観客+ライブ配信)にチャレンジしたフェスタサマーミューザKAWASAKI。今年も昨年に続き、全20公演の配信実施が発表された。この大規模音楽祭のライブ配信の映像・音響収録を手がけたYouClassicsのプロデューサーに、制作においてこだわっているポイント、ライブ配信の魅力などについて話を聞いた。
── まずYouClassicsのこだわりについてお伺いします。録音についてどのような点を重視していますか?
クラシックのアコースティックの録音は、簡単にやろうとすれば、ある程度バランスよく雰囲気を伝えることができる場合もあると思います。しかし、バランスに楽器の音色感を少しだけ加味するところに、どれだけこだわるかが難しいところです。また、音の左右の広がりはわかりやすいのですが、本当に難しいのは奥行き感を出すことで、それこそがライブ録音の難しいところです。音色を出そうとすると音が前に来がちですが、そこは奥に置いたまま、オーボエならその楽器の持つ音色を失わずに、弦楽器群の奥にある音にして、他の楽器とバランスをとる。結果的に臨場感のあるサウンドになるのだと考えています。
── ライブ配信やアーカイブ配信の魅力はどのようなところでしょうか?
ほとんどの音楽関係者も観客の方も、クラシックに限らずコンサートや演劇などの舞台上でのパフォーマンスは生で観て体感するのが一番であり、ライブ配信は会場に行けない人への「救済プラットフォーム」だとお考えではないでしょうか?それは、決して間違ってはいませんが、「正解だとも言えない」と私は考えています。この「正解だとも言えない」という点が、我々のチームで送るライブ配信の目指しているところです。
── その点を詳しく聞かせていただけますか。
まずライブ配信において、「4K映像だから綺麗」とか、「ハイレゾだから音がいい」など、そのような“規格”が先行して語られることが多いと感じています。それは大きな間違いではないでしょうか?
いま実際に配信されている映像は、狙いや意図が感じられず、単に目立って演奏している人ばかりを追っているものが多いような印象を受けます。しかし管楽器のソロがある時は、オブリガートや副旋律など、他の弦楽器や管楽器がそのソロを導きだすお膳立てをしています。そのような関係性を映像で捉えられると、より緊張感が出たり、アンサンブルが見えたりしてきます。すると「待ってました!」とばかりにソロが本当にありがたく聴こえたり、その音楽が真に持っているワクワクする要素が伝わってくるんです。
そしてもうひとつ重要な要素は、何より演奏している「人」です。その演奏家の表情が、その音楽を醸し出す情熱や緊張感をさりげなく伝えています。演奏する少し前からその人を撮っていると、この一音にかける演奏者の緊張感や意気込みが伝わってくるのです。これらが映像表現の醍醐味で、生の会場ではあまり見えてこない配信ならではの魅力です。単なる「救済プラットフォーム」ではないと思う所以です。
そしてそういった映像や音があって初めて4Kとかハイレゾといった“規格”の話になるのです。しかし私自身、本当に作曲家が書いた音楽が持つ重要な要素をしっかり表現できているか、いつも自問自答しながら現場に立っています。今後もライブ配信、アーカイブ配信を観てくださる方に、臨場感ある映像・音場を提供していきたいと考えています。
── 今後の目標、抱負を教えてください。
わたしが子どもの頃、外国のクラシック音楽の演奏を生で聴く機会はありませんでしたが、カラヤン×ベルリン・フィルのベートーヴェンの交響曲全曲を映画館で上映しているのを知り観に通った体験があります。白黒のスタジオで特殊な撮影をした、カラヤンばかりがカッコよく映った映像を観て楽しんでいました。
当時は、カラヤン、バーンスタイン、ベーム、クライバーなど名だたるスターがいて、レコード全盛の時代でしたが、彼らの映像が出ると大きな話題になったものです。これまではそのようなスター指揮者やソリスト、オーケストラがクラシック音楽の映像を広めていったように思います。音楽と同時にクラシック界のスターアーティスト見たさに、音楽映像ソフトを求めていました。今は昔のようなレコード全盛時代が過ぎ、CDも売れない時代になり、それに伴い雑誌の数も減り、メディアが減るということは、スターが生まれにくい状況にあるのかもしれません。
今後は日本においても、代表的なUNITELや近年注目を集めるmedici.tvなど海外の映像制作の先駆者たちに追いつけ追い越せだと思っています。われわれYouClassicsは映像・音響のプロが集まったチームです。この先、映像作品というものを「日本の音楽家を世界に羽ばたかせるプラットフォーム」にしていきたい。そのために、欧米に負けない演奏だからこそ、欧米に勝る映像と音で、「日本発の映像音楽」を発信していかなければならないと考えています。
小澤征爾音楽塾 特別公演 ダイジェスト映像
YouClassicsが制作した映像が、いまアーカイブ配信されている。3月23日に東京文化会館で行われた「小澤征爾音楽塾 特別公演 2021」だ。宮本文昭が指揮を務め、塾生たちに加え豊嶋泰嗣や川本嘉子らのベテラン講師陣、さらに大宮臨太郎や宮田大など今活躍しているOB・OGも参加した豪華メンバーによるオーケストラ公演で、当日のチケットは完売したという。プログラムは、ベートーヴェンの「エグモント」序曲、チャイコフスキー「弦楽セレナード」、メインはベートーヴェンの交響曲第7番。アーカイブ配信は好評につき4月30日まで延長していて、配信でしか見られない貴重な映像も公開されている。熱気あふれる公演の模様をYouClassicsがどのように表現したのか? この公演を実際に観た人も、観ていない人も、そして配信は観たことがないという人もこの機会にぜひ体験してほしい。コロナ禍に登場した配信という新しいサービスで、クラシック音楽の楽しみ方の幅を広げてみてはいかがだろう。
◎YouClassics制作実績
・フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2020 全17公演
・都響スペシャル2020(2020年9月 東京都交響楽団@サントリーホール)※映像のみ
・さいたまアートフェスタ ファミリーコンサート Hello!オーケストラ(2020年11月 新日本フィルハーモニー@埼玉会館)
・フレッシュ名曲コンサート(2021年1月 読売日本交響楽団@めぐろパーシモンホール)
・ブラスワンダース(2021年2月 @宮地楽器ホール)
・小澤征爾音楽塾 特別公演 2021(2021年3月 @東京文化会館)
・東京・春・音楽祭2021 ※映像のみ 全70公演中17公演
◎YouClassicsが手がけた作品は↓こちら↓
フェスタサマーミューザ KAWASAKI 2020 ハイライト
https://youtube.com/playlist?list=PLr4K2-Okim_RGavZZBJEKArotEU0khgik
めぐろパーシモンホール《フレッシュ名曲コンサート》 読響×原田慶太楼×小井土文哉 ハイライト
https://www.youtube.com/watch?v=jdmvXgOu1vg
◎現在配信中!
小澤征爾音楽塾 特別公演 2021
配信チケット:1000円(税込み・システム手数料含む)販売中
☆☆4月30日まで販売期間延長!☆☆
https://tiget.net/tours/ongakujuku
小澤征爾音楽塾
https://ozawa-musicacademy.com
◎この先の公演
フェスタサマーミューザ KAWASAKI2021
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/