国際的な実力派ピアニスト、河村尚子は、この10月にドイツの俊才チェリスト、マキシミリアン・ホルヌングとデュオ・リサイタルを行う。彼は23歳でバイエルン放送響の第1首席奏者に就任し、2013年以降はソリストとして活躍。ソニーからリリースされたCDでも高い評価を得ている。
「3年前の日本ツアー以来、年10回以上共演しているメイン・パートナー。彼は情熱をもちながら自然に流れるように演奏し、歌心をとても大事にしています。それに本番での自由さを求めますので、私もやりたいことができると同時に、彼に応えてあげたくもなります」
今回は、ブラームスの2つのチェロ・ソナタを軸に“歌心”が生きるプログラムが組まれている。
「ブラームスの2番は彼の十八番。チェロでは弾かれないマーラーの歌曲集『さすらう若人の歌』、シューマンの中ではあまり演奏されない『5つの民謡風の小品集』が入っていますので、オリジナリティもあります」
中でも珍しい「さすらう若人の歌」(ホルヌング編曲)が目をひく。
「マーラー自身が書いたピアノの伴奏でチェロが歌うかたち。構成自体は原曲と同じです。チェロは声と音域が似ていますし、ヴィブラートなどを用いて、歌に近い感じを出すことができます。それに私は学校でマーラーの交響曲第1番(この歌曲集と素材が共通)を勉強していたとき、『さすらう〜』の管弦楽版をよく聴いていました。素晴らしい曲なのでいつか弾きたいと思っていましたし、ピアニストはマーラーを演奏する機会がないので、弾けるのはとても嬉しいですね」
ブラームスのソナタは、共にチェロの看板曲だ。
「1番は、情緒的で暗い雰囲気の音楽ですが、バッハの『フーガの技法』のテーマに基づいた終楽章が聴きどころ。2番はパッションに溢れた曲で、感情が爆発するようなパッセージが沢山入っています。また1番は古典的で音楽の厳しさがあり、2番はもう少し解放されているといえるでしょうか」
彼女は、2番の第2楽章が「憧れの曲だった」という。
「子どもの頃にCDで聴いて、ピアノが弾くテーマを伴奏しながらどんどん豊かになっていくチェロのピッツィカートの響きに憧れました。楽章全体も情熱的かつ感傷的で、両楽器の掛け合いが見事だなぁと、弾きながらいつも感じています」
彼女はまたチェリストとの共演が多い。
「チェロは低域が聴こえにくくなるので、そのぶんピアノは柔らかく控えめに弾くなど、ソロや他の室内楽とは気遣いに違いがあります。でもその音色やピアノで歌うのが難しい中低域の歌は魅力ですね」
本ツアーは、「安心感があって好き」と語る紀尾井ホールなど3公演のみ。“室内楽の聖地”、ロンドンのウィグモア・ホールでも絶賛されたデュオを、お見逃しなく!
取材・文:柴田克彦
(ぶらあぼ2017年10月号より)
マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)&河村尚子(ピアノ) デュオリサイタル
2017.10/11(水)19:00 紀尾井ホール
問:紀尾井ホールチケットセンター03-3237-0061
http://www.kioi-hall.or.jp/
他公演
2017.10/9(月・祝)山形/白鷹町文化交流センターあゆーむ(0238-85-9071)
2017.10/12(木)京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ(075-711-3231)