若き日の森鷗外も観た伝説のオペラが山形・長井に再び!――日本初演から20年、粟國淳演出で蘇る《ゼッキンゲンのトランペット吹き》

文・室田尚子
写真提供:長井市

 ヴィクトル・ネッスラー作曲のオペラ《ゼッキンゲンのトランペット吹き》が山形県長井市で日本初演されたのが2006年。それから20年を経てこの9月に、同じ長井市で再演の運びとなった。このオペラは1884年5月4日に、ライプツィヒ市立劇場でアルトゥール・ニキシュの指揮で初演され、たちまち大ヒットを記録したが、第二次大戦後に歌劇場のレパートリーから消えてしまい、幻の作品となっていた。17世紀半ば、トランペット吹きの兵隊ヴェルナーと貴族の令嬢マリアとの身分違いの恋を描いた物語で、実在の恋人たちがモデルになっている。長井市で日本初演が行われることになったのは、同市がこの作品の舞台となったバート・ゼッキンゲン市と姉妹都市だからである。

《ゼッキンゲンのトランペット吹き》の日本初演は2006年、長井市民文化会館にて上演された

水と緑が結んだ、ゼッキンゲン市との絆

 市のホームページによると、そもそもの始まりは1977年、日独スポーツ少年団同時交流事業で長井市がゼッキンゲン市から9名の青少年をホームステイで受け入れたことだそう。これをきっかけに柔道やスキー、水泳などのジャンルでの市民交流が始まり、1983年にゼッキンゲン市で、翌84年に長井市で姉妹都市の調印が交わされた。ドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州にあるゼッキンゲン市はシュヴァルツバルトの南端に位置し、ライン川を挟んだ対岸はスイスである。古くから温泉保養地として知られ、豊かな水と緑が美しいところ。一方の長井市も最上川に面し、町中を水路がかけめぐる「水と緑と花のまち」で、両市にどこか似たような趣があることも姉妹都市締結の原動力となったのかもしれない。

ゼッキンゲン市の方々との交流
姉妹都市盟約締結30周年記念(2013年)
右:内谷重治 長井市市長

 2006年のオペラ日本初演実行委員会には、「長井バート・ゼッキンゲンクラブ」のメンバーが名を連ねているが、そのひとりである遠藤三雄(当時の実行委員会会長)によれば、このゼッキンゲンクラブの総会に音楽学者の瀧井敬子が招かれて講演を行ったことが、オペラ初演につながったのだという。瀧井は東京藝術大学楽理科で学び、日本の洋楽受容期についての研究で知られているが、特に森鷗外訳によるグルックのオペラ《オルフエウス》の楽譜出版(2004年)とオペラ初演(2005年)は大きな評判となった。ちなみに森鷗外が明治22(1889)年に発表した訳詩集『於母影』には、オペラの原作であるヨーゼフ・ヴィクトル・シェッフェルの長編詩『ゼッキンゲンのトランペット吹き』からの詩が収められている。

両市交流のシンボルとして長井市「バートゼッキンゲン通り」に置かれた記念碑(左より2番目が瀧井敬子氏)
ゼッキンゲン市トランぺッター城の前で

名歌手が結集する、特別な舞台

 本作の楽譜(スコアとパート譜)は2つの大戦を経てほぼ焼失してしまったが、バリトン歌手のヘルマン・プライが、マンハイム歌劇場に残っていた手書きのスコアを元に楽譜を復元、1997年にケルン放送管弦楽団と共にCDを録音した。瀧井はケルン放送管の資料室を訪れてこのパート譜を入手。指揮者の佐藤正浩がカット・校訂を行ない「長井市日本初演バージョン」を作り上げた。初演から20年を経た今年は、原作者シェッフェルの生誕200年でもある。記念すべき年に行われる再演は、演出に粟國淳を迎えての新制作となる。またキャストも一新され、黒田祐貴、三宅理恵ら今をときめく歌手が集結。さらに充実したプロダクションとなることは間違いなさそうだ。

上段左:粟國淳(演出) 右:佐藤正浩(指揮)
下段左:黒田祐貴(ヴェルナー) 右:三宅理恵(マリア)

日本初演20周年記念 特別公演
オペラ《ゼッキンゲンのトランペット吹き》


2026.9/5(土)、9/6(日)各日14:00
長井市民文化会館ホール
 

総監督:瀧井敬子
指揮:佐藤正浩
演出:粟國淳
 
ヴェルナー:黒田祐貴
マリア:三宅理恵
コンラディーン:高橋洋介
元伯爵夫人:山下牧子
シェーナウ男爵:奥秋大樹
ダーミアン:宮里直樹
 
管弦楽:山形交響楽団
合唱:長井バート・ゼッキンゲン記念合唱団2026
ダンサー:廣川みくり、池田武志
 
問:長井市ブランド戦略課0238-82-0030
https://www.city.nagai.yamagata.jp
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