オール・ジャパンの豪華キャストで挑むヴェルディの傑作!全国共同制作オペラ《イル・トロヴァトーレ》が今秋、開幕

 2026年度 全国共同制作オペラ《イル・トロヴァトーレ》の記者会見が8月19日、都内で行われた。全国共同制作オペラは各地の公共ホールや芸術団体が連携し、新演出のオペラを共同制作して国内巡演を行う、2009年度よりスタートしたプロジェクト。今回は10月から11月にかけて、石川、大阪、東京、新潟の4ヵ所で上演される。

三戸大久(フェランド)、大西宇宙(ルーナ伯爵)、木下美穂子(レオノーラ)、飯坂純(指揮)、髙岸未朝(演出)、笛田博昭(マンリーコ)、清水華澄(アズチェーナ)が登壇

 宿敵として互いの素性を知らないまま、一人の女性(レオノーラ)を巡って争う実の兄弟、マンリーコとルーナ伯爵。《イル・トロヴァトーレ》は、過去の復讐劇と愛憎が絡み合い、悲劇的で衝撃的な結末へと突き進む人間ドラマで、ヴェルディ中期の傑作だ。高い歌唱技術と重厚な合唱が要求されるため、上演機会が比較的少ない作品で、今回は日本を代表する歌手陣が結集しての「オール・ジャパン・キャスト」で実現する。

 このプロジェクトでは、これまで音楽分野以外のジャンルで活躍する演出家を起用することが多かったが、今回は、演劇やコンサートのほか、オペラ演出の経験もある髙岸未朝が担当する。《イル・トロヴァトーレ》は高校生時代に合唱曲を自ら指揮し、それ以来「大好きな作品」だという。これまでに上演経験もあり、今回の演出コンセプトとして「光と影」を提示する。

髙岸未朝

「《イル・トロヴァトーレ》は大きく分けて8つのシーンがあり、そのほとんどが夜の場面という、極めて珍しいオペラです。この『8種の夜』をどのように描くかを最初に考えたいと思いました。またキャラクターの中では、光そのものを意味するレオノーラ、月を意味するルーナ伯爵(ただし自分自身では光れず、太陽の光を浴びて輝く)を『光(セレブリティ)』とし、虐げられた民族・ロマであるアズチェーナと、彼女に育てられたをマンリーコを『影』として描きます。
 実は同じ一本のファミリーツリー(家系図)から引き裂かれたルーナとマンリーコが、レオノーラという『光』を媒介に再び出会ってしまう。そこで起きる血の因縁が美しい旋律で描かれます。最後は観客が取り残されるようなやり方で、ヴェルディは観客たちに衝撃を与えました。その衝撃を面白い形で舞台上に表現できればと思っています」 

 石川、大阪、新潟公演で指揮を務める飯坂純は、新国立劇場の音楽スタッフをはじめ、多くのオペラ作品で現場を経験する。

「オペラを創る過程は、プロフェッショナルな人々が心を込めて丹念に手がける『ひとつの街』のようなものです。見えないところで動くスタッフをふくめ、多くの方の想いが全国に広がっていくこの共同制作は、私が理想とする音楽の繋がりそのものです。地方のオーケストラや合唱団と交流し、新たな音楽の輪を広げていけることに大きな意義を感じています」

飯坂純

 東京公演でタクトをとる熊倉優は、ハノーファー州立歌劇場第1カペルマイスターに就任し、ドイツを拠点に活躍する俊英で、ハノーファーでも9月から10月にかけて《イル・トロヴァトーレ》を振る予定。「日本で初めて舞台付きのオペラを指揮する」という今回の意気込みを、ビデオメッセージの形で寄せた。

「本作の魅力の一つは、ただ暗く物悲しいだけでなく、ドラマティックで非常にかっこいい、一度聴いたら耳に残る歌がすべてのキャストに散りばめられている点です。僕がオペラを創る上で心掛けているのは、オーケストラやキャストの皆さまと音楽のイメージを共有、交換することです。オペラは総合芸術で、音楽だけでなく、舞台、演出、照明、さまざまなものが重なっての一期一会のもの。ぜひ生でこのプロダクションを聴いてほしいです」 

熊倉優

 過酷な運命に翻弄される登場人物たちを演じるキャスト陣も、それぞれに想いを語った。

 イタリアでオペラ・デビューを果たし、そのとき演じたのがマンリーコだったという笛田博昭(全公演出演)。
「《イル・トロヴァトーレ=吟遊詩人》はマンリーコがタイトルロールですが、実質的にはオペラ《アズチェーナ》だと思うのです。本当の生い立ちを知らぬまま生きるマンリーコは母アズチェーナの復讐に巻き込まれ、いいように動かされている。いわば『操り人形』のような存在です。演じる上でそのことは知りませんので、レオノーラへの愛はもちろんですが、何よりも母への絶対的な愛があります。そこにロマとしての野生味を融合させて演じたいと思い、今、髭も伸ばし始めました(笑)」

笛田博昭

 レオノーラ役を務める木下美穂子(大阪・東京公演)は、ヴェルディ作品のなかで「一二を争うほど大好き」という。
「1幕冒頭のアリア〈静かな夜〉を初めて歌った頃は、夜の色合いがよく分かりませんでした。その後、イタリアへいった時に夜空が青く、以来歌うときは常にその青をイメージしています。この作品の魅力はまるでベッリーニを思わせるような美しい旋律で、それをヴェルディのスタイルを持って歌う。愛の強さが音楽にも描かれ、愛する人のために毒を飲んでまで救いに行くその強さを表現することは私にとって喜びです」

木下美穂子

 復讐の念に囚われたアズチェーナ役の清水華澄(石川・新潟公演)は、「影の主役を歌います(笑)。キャスト陣は経験豊富な実力者が揃っていますので、『声の共演』になることは間違いありません。みんなの声を思い切り楽しみたいですし、どうやって創っていくのか、そこに興味があります。ぜひ聴きにいらしてください!」と明るく呼びかけた。

清水華澄

 学生時代から本作に親しんできたという大西宇宙(大阪・東京公演)は、今回初役となるルーナ伯爵を演じる。
「髙岸さんのお話を伺うまで、ルーナ伯爵は影側の人間かと思っていましたが、『ルーナは太陽の光を浴びて輝く』というアイディアをいただき、彼のキャラクターを自分の中でどう落とし込んでいくか、メンバーの会話を聞きながらすでに(物語が)始まっているような感じがして、ワクワクしています。
 《イル・トロヴァトーレ》は技術的に本当に難しく、世界でも頻繁に上演される作品ではありません。それは真の意味で『ヴェルディの声』ーーただ暗くて陰鬱な声があるだけでなく、そこに輝きも求められるーーが必要とされるオペラだからと感じます。どこまで緻密に表現できるか、私にとって大きな挑戦です。今回の公演は、単に『日本で上演する』ということ以上に、ある意味『世界に挑戦状を叩きつける』ような意気込みで臨みたいです」

大西宇宙

 フェランド役の三戸大久(石川・新潟公演)はストーリーテラーのような役割だ。
「光と影がテーマということで、僕はなんなのだろうと…。髙岸さんの演出プランを伺い、どんな形になるのか楽しみにしています。フェランドは第1幕の冒頭、最初に登場してこの4人の悲劇を説明する、入り口となります。オペラを知り尽くし縁のあるお二人、髙岸さんと飯坂さんに、同世代の歌手たちと歌えることを楽しみにしています」

三戸大久

 質疑応答では、《イル・トロヴァトーレ》のストーリーの不連続性について問われた髙岸。
「物語を理解しようとすると分かりづらく、情報を追加しなければいけない部分がたくさん出てくるオペラです。演劇の世界では、日本の観客がストーリーが分からないと入り込みにくい、ということが研究でも言われています。オペラの上でもそうであっても、説明しすぎず、ある意味紙芝居のように、描かれている作品だけを観て、そのあいだを観客自身に考えていただくのも一つの提示の仕方だと考えます。一つひとつのシーンの強さで人間関係を浮き彫りにする描き方を目指します」

 本公演のプロデューサー陣が「現在の日本における最高のキャスティング」と胸を張る。日本人キャストによる世界レベルの歌唱と、緻密に練られた演出が融合する新たな《イル・トロヴァトーレ》。今秋の開幕に大きな期待が募る。

取材・写真:編集部

2026年度 全国共同制作オペラ
ヴェルディ:歌劇《イル・トロヴァトーレ》新制作

(全4幕/イタリア語上演/日本語・英語字幕付き)

【石川】2026.10/18(日)14:00 金沢歌劇座
【大阪】2026.11/8(日)14:00 枚方市総合文化芸術センター
【東京】2026.11/21(土)14:00 東京芸術劇場 コンサートホール
【新潟】2026.11/29(日)14:00 新潟県民会館


演出:髙岸未朝
指揮:飯坂純(石川、大阪、新潟)、熊倉優(東京)

出演
マンリーコ:笛田博昭
レオノーラ:佐藤康子(石川、新潟)、木下美穂子(大阪・東京)
アズチェーナ:清水華澄(石川、新潟)、谷口睦美(大阪・東京)
ルーナ伯爵:青山貴(石川、新潟)、大西宇宙(大阪・東京)
フェランド:三戸大久(石川、新潟)、田中大揮(大阪・東京)
イネス:梨谷桃子
ルイス:中井亮一
合唱:金沢オペラ合唱団(石川)、枚方シティオペラ合唱団(大阪)、
   ザ・オペラ・クワイア(東京)、新潟県民オペラ合唱団(新潟)

演奏
オーケストラ・アンサンブル金沢(石川)
大阪フィルハーモニー交響楽団(大阪)
ザ・オペラ・バンド(東京)
新潟セントラルフィルハーモニー管弦楽団(新潟)

問:金沢芸術創造財団076-223-9898(石川)
  枚方市総合文化芸術センター本館072-845-4910(大阪)
  東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296(東京)
  新潟県文化課025-280-5139(新潟)
https://www.geigeki.jp/special/trovatore/