島根恵・朋史が、平尾貴四男による幻の弦楽四重奏曲を復元楽譜で蘇演!

左:島根朋史 右:島根 恵

 平尾貴四男(1907〜53)の弦楽四重奏曲は1940年日本/1941年ドイツにて初演後、楽譜が所在不明になっていた幻の作品。このほど音源の奇跡的な発見により、復元楽譜による録音が実現した。楽譜の復元と録音に携わった、平尾の孫の夫人であるヴァイオリンの島根恵、そしてその子息でチェロの朋史に話を聞いた。

「東大名誉教授の長木誠司先生がライプツィヒのドイツ国立図書館で戦中にデッサウ弦楽四重奏団が録音したSP音源を発見し、そのコピーを平尾の遺族の私たちに寄贈してくれたのが始まりです。聴くだけでなく演奏できたらと思い、聴音・採譜を始めたのですが、一拍子と思われる変拍子もあり、雑音の多い音源から4つの楽器を聴き分けるのが大変難しかったです」

朋史「平尾は弦楽器を熟知しており、楽器ごとに効果的な書法を用いて、奏者全員が演奏しやすい四重奏曲に仕立てています。しかし本作は楽章内のテンポ変化が多いので、デッサウ四重奏団の録音時にはおそらく指揮者がいて細かく指示を出していたように思います。そのため不自然に音やリズムが乱れて、とても聴きとりづらい箇所が多くありました。今回の録音では高校・大学の同級生だったヴィオラの中村翔太郎さん、後輩でヴァイオリンの山本佳輝さんが参加してくれて、採譜に関しても様々な助言をくれました。監修いただいた作曲家の高橋裕先生からは、装飾音の記譜や発想記号などについてご提案をいただきました」

 ディスクには平尾の歌曲、ヴァンサン・ダンディの弦楽四重奏曲第2番も収録された。平尾がパリで師事したギュイ・ド・リオンクールはダンディの高弟にあたる。今回の録音を機に平尾の音楽を多角的に広めていきたいという。5月にはコンサートも予定されている。

「歌曲〈海に寄する歌〉は平尾の代表作で、ぜひ弦楽四重奏の響きでお聴きいただきたいと思い編曲いたしました。平尾作品の個展は時々行われてきましたが、他の作曲家と結び付けて紹介することは少なかったので、今後は例えばダンディの師であるフランクとも関連付けた企画を行いたいですね」

朋史「ダンディの四重奏曲は19世紀末に書かれた名曲です。平尾作品には循環形式や一拍子などダンディの作品と類似する箇所があり、影響が感じられます。平尾の弦楽四重奏曲には雅楽やお囃子などに似た日本的な要素が溢れています。古き良き日本のアイデンティティのようなものも表現されていますので、そうした魅力も感じていただけると嬉しいです」

取材・文:伊藤制子

(ぶらあぼ2026年4月号より)

平尾貴四男「弦楽四重奏曲」復元楽譜&CD 発売記念コンサート
2026.5/7(木)14:00 19:00 ルーテル市ヶ谷ホール
問:ムジカキアラ03-6431-8186
http://tomofumi0shimane.web.fc2.com

CD『平尾貴四男 幻の弦楽四重奏曲』
コジマ録音
ALM-9283
¥3300(税込)


伊藤制子 Seiko Ito(音楽学・音楽評論)

東京藝大、同大大学院修了。現在、東邦音大・同大学院、静岡文化芸大、日大講師。日仏の20世紀以後の音楽、音楽美学を研究するかたわら、音楽評論、海外オペラ取材なども行う。2017年のモンテヴェルディ生誕450年イヤーにヴェネツィアのフェニーチェ歌劇場のモンテヴェルディ三部作の上演を取材。音楽以外のライフワークは旅と俳句。奈良、ヴェネツィアなどで史跡を探索するのが趣味。