鶴首していた、バリトン・サクソフォンの名手・本堂誠6年ぶりのアルバムである。サクソフォンには他楽器のためのソナタや協奏曲の演奏可能性が豊かにあり、かつ楽曲に独自の声を与え得る楽器と感じるが、それを確信に変えてくれる一人が本堂だ。今回は国民楽派がテーマで、ヒナステラやカサド、ヴィラ=ロボスらラテン系作曲家に加え北欧のグリーグのチェロ・ソナタも。圧倒的なコントロールによって重厚な低音から天翔ける高音、荒々しい響きまで、楽器の潜在力が存分に発揮される。それが国民楽派の「土の香り」を立ち昇らせるのが素晴らしい。6年の間に増した表現の深みに打たれる。
文:矢澤孝樹
(ぶらあぼ2026年3月号より)
【information】
SACD『BARITONISM III―遥かなる地の詩―/本堂誠』
ヒナステラ:パンペアーナ第2番/ヴィラ=ロボス:黒鳥の歌、「ブラジル風バッハ第5番」よりアリア/グリーグ:チェロ・ソナタ/カサド:無伴奏チェロ組曲/ポッパー:ハンガリー狂詩曲
本堂誠(バリトン・サクソフォン)
羽石道代(ピアノ)
オクタヴィア・レコード
OVCC-00184 ¥3850(税込)

矢澤孝樹 Takaki Yazawa
1969年山梨県塩山市(現・甲州市)生。慶應義塾大学文学部卒。水戸芸術館音楽部門主任学芸員を経て現在ニューロン製菓(株)及び(株)アンデ代表取締役社長。並行して音楽評論活動を行い、『レコード芸術online』『音楽の友』『モーストリークラシック』『ぶらあぼ』『CDジャーナル』にレギュラー執筆。朝日新聞クラシックCD評選者および執筆者。CD及び演奏会解説多数。著書に『マタイ受難曲』(音楽之友社)。ほか共著多数。



