群馬交響楽団が2025-26シーズン定期演奏会ラインナップを発表

楽団創設80周年を記念して楽団初の「千人の交響曲」を

 群馬交響楽団が10月29日、本拠地の高崎芸術劇場で記者発表を行い、2025-2026シーズン(2025年4月〜2026年3月)定期演奏会の概要を発表した。会見には、常任指揮者の飯森範親、音楽主幹の上野喜浩、高崎芸術劇場館長の児玉正藏らが出席。1945年(昭和20年)11月、前身の高崎市民オーケストラとして出発してから80周年を迎える特別なシーズンにふさわしい華やかなプログラムが組まれた。

左より)上野喜浩(群馬交響楽団 音楽主幹)、町田裕之(同 専務理事)、飯森範親(同 常任指揮者)
児玉正藏(高崎芸術劇場 館長)、串田千明(同 事業企画担当部長)

 今季は7月に節目となる600回定期演奏会を開催し、さらなるファン層の拡大を目指す群響。高崎芸術劇場に本拠地を移してから、この9月で丸5年。恵まれた練習環境の中で充実の時を迎えている。来季は、飯森体制3年目。就任当初から毎シーズン取り上げられているR.シュトラウスの大規模作品だが、25年4月には飯森のタクトのもと、大作「アルプス交響曲」でシーズン開幕を飾る。

 最も注目されるのは、楽団創設月でもある11月に行われる第613回定期と翌日の特別演奏会。楽団史上初となるマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」で80周年を祝う。大編成となるため、オーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)との合同演奏で、小林沙羅、森谷真理(以上ソプラノ)らソリスト8名、合唱団を含め総勢約400名がステージに上がる。

 飯森は、1年目のシーズンから各定期でモーツァルトをとりあげるなど、とりわけモーツァルトなど古典のレパートリーに注力してきた。結果として、楽団のポテンシャルが着実に上がってきたことに手応えを感じているなかでの「千人」だという。
「就任当初から、3年目に80周年という節目が来ることは聞いていましたから、この3年目をどういうふうに迎えるのが良いのか、私のなかでも重要なファクターとしてありました。いま、特に弦楽器の透明感が増して、音程感覚がとても良くなった。メンバーの意識、方向性の共有が短いリハーサルの中でもできている。そうした状況をベースに、『来年もこれなら行けるだろう』というプログラムを選びました。リーダーに求められることは、未来へのビジョンを示すこと。80年、90年と、我々がどういうふうに発展していくかを考えてのプログラミングです」

 そのほか、目を引くのは、すべての定期演奏会で日本人作曲家の作品をとりあげること。古くは山田耕筰の1912年の作品から、劇伴や映画音楽の分野では最も注目を集める存在である菅野祐悟への委嘱新作まで、10作品がラインナップされている。上野主幹は、「なかなか再演の機会がない作品が多いという現状がありますが、日本人作曲家の歴史と我々群響の歴史も重ね合わせて振り返ることができる良い機会。日本の一楽団としても、こうした作品を演奏する責任があるのではないか」と意図を強調した。

 海外アーティストの登場回数が多いのも大きな特徴。ミュンヘン・フィルへの登壇も決定している注目の女性指揮者ヨハンナ・マラングレや、パリ・オペラ座などでも活躍するピエール・デュムソーなど、上昇気流に乗る若手たちのほか、ヤン・ヴィレム・デ・フリーント、クリスティアン・アルミンクら中堅〜ベテラン世代も多彩な顔ぶれ。ソリストには、アレクサンドル・メルニコフやパスカル・ロジェといった人気ピアニストや、トランペットの名手イエルーン・ベルワルツ、フランスのアコーディオンの鬼才フェリシアン・ブリュも登場する。名誉指揮者の高関健、ドイツを拠点にオペラの分野でも実績を積む熊倉優と、日本勢も充実の布陣となった。

 その他、80周年にちなんで、ショスタコーヴィチ、マーラー、シューベルトの交響曲第8番を演奏する「8」にこだわった選曲、近年特に力を入れている楽員ソリストの起用、OEKや広島交響楽団のメンバーとの合同演奏など、例年にも増して話題性の多い一年となる。

「たとえば(来季にとりあげる)リヒャルト・シュトラウスやマーラー、ワーグナーでは、いろんな楽器が複雑に、緻密に絡み合い、2つ、3つの旋律が同時進行で音楽が進んでいく。縦が合っていれば音楽となるわけではなく、それぞれのテーマ、モティーフがいかにモノを言うかが求められる作品。基本的な音程感覚、表拍・裏拍の感じ方など、古典的な作品をやってきた経験があれば、複雑な作品になっても応用して取り組むことができる。一人ひとりが考えに考え抜いた精神性の高さが、確固たる技術や響きと和声感、色合いとともに表現されるのではないか」

 期待を語る飯森のことばからは、楽団の未来を見据えたマエストロの強い決意が感じられた。地域に根ざし、市民に愛されて80年。日本の戦後のあゆみとともに歴史を重ねてきた群響の節目のシーズンは、平和への願いを込めたベートーヴェン「第九」で幕を閉じる。

 高崎芸術劇場とタッグを組み、好評を博す企画、GTシンフォニック・コンサートシリーズのラインナップもこの日の会見で発表されたが、巨匠レナード・スラットキン指揮によるオール・アメリカン・プログラム、ブルーノート東京との提携によるジャズ、沼尻竜典が振る《カルメン》など、こちらも多岐にわたる6公演がラインナップされた。

文:編集部
写真提供:群馬交響楽団

群馬交響楽団
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