HIMARI&山田和樹——2025年、世界最高峰のオーケストラに二人の日本人が初登場

左:HIMARI ©Hitoshi Iwakiri 右:山田和樹 ©Zuzanna Specjal

文:飯尾洋一

 世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にだれが客演するのか。毎年、新シーズンのラインナップが発表されるたびに、その陣容が大きな話題を呼ぶ。ベルリン・フィルの定期演奏会に招かれるのは、ほんの一握りのトップアーティストのみ。客演指揮者にもソリストにもビッグネームがずらりと名を連ねる。
 そんな豪華ラインナップのなかで、2024/25シーズンはふたりの日本人アーティストがデビューを果たす。ひとりはヴァイオリニストのHIMARI。3月にズービン・メータと共演する。もうひとりは指揮者の山田和樹。6月に登場する。日本人指揮者の定期演奏会出演としては2016年の小澤征爾以来、久々のこと。また日本人指揮者のデビューは11年の佐渡裕まで遡る。ふたりのベルリン・フィルへの初登場は、25年の音楽界における大きなトピックスだろう。

13歳の天才ヴァイオリニストHIMARIが88歳のレジェンド ズービン・メータと共演

 HIMARIが演奏するのは、ヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第1番(3/20 ,3/21 ,3/22)。全編にわたって華麗な技巧で彩られ、ソリストが一身に注目を集める作品だ。この日はウェーバーの歌劇《オベロン》序曲で幕を開け、ヴィエニャフスキのヴァイオリン協奏曲第1番、シューベルトの交響曲第8番「ザ・グレイト」が演奏されるロマン派プログラム。HIMARIは最年少でアメリカの名門カーティス音楽院に入学した逸材だ。わずか13歳での出演であることはベルリン・フィルの公式サイトにも記されており、大きな驚きをもって迎え入れられることはまちがいない。すでに国内の主要オーケストラにたびたび客演し、2024年の大晦日にはマリン・オルソップ指揮フィラデルフィア管のジルベスターコンサートにも出演。ベルリン・フィルとの共演を機にHIMARIへの国際的な注目度は格段に高まることだろう。そして、共演者は88歳の大巨匠ズービン・メータ。協奏曲で若い演奏家を経験豊かなベテラン指揮者がサポートする光景はよく見かけるが、それにしても75歳の年齢差は前代未聞ではないだろうか。

ズービン・メータ ©Monika Rittershaus

小澤征爾、佐渡裕に続き、山田和樹がベルリン・フィルの指揮台へ

 一方、山田和樹はサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」を中心とした色彩感豊かなプログラムを披露する(6/12 ,6/13 ,6/14)。前半はレスピーギの交響詩「ローマの噴水」と武満徹の「ウォーター・ドリーミング」。水をキーワードにした2曲が並ぶ。武満作品では首席フルート奏者のエマニュエル・パユがソリストを務める。サン=サーンスでのオルガン独奏はドイツの若手セバスティアン・ハインドル。イタリア、日本、フランスの作曲家が並ぶプログラムは、幅広いレパートリーを持つ山田和樹らしい。超精鋭集団であるベルリン・フィルからどんなサウンドを引き出してくれるのか、大いに楽しみなところである。

 山田は現在、バーミンガム市響音楽監督、モンテカルロ・フィル芸術監督兼音楽監督。これまでにスイス・ロマンド管の首席客演指揮者も務めている。2024年はニューヨーク・フィル、サンフランシスコ響といったアメリカのメジャー・オーケストラにもデビューを果たしている。実績を考えれば、ベルリン・フィルへの登場はサプライズなどではなく、機が熟したというべきだろう。

最高峰の舞台で活躍する日本人の雄姿はライブ配信でチェック

 ありがたいことに、ベルリン・フィルの定期公演はデジタル・コンサート・ホールを通じて、インターネットでライブ配信されている。HIMARIとメータの公演は日本時間で3月23日、山田和樹指揮の公演は6月15日にライブ配信され、さらに時差を考慮した時間差配信も行われる。また公演後にはオンデマンドでアーカイブ配信される見込みだ。高画質・高音質の配信で、ふたりの雄姿を見届けたい。

©Stephan Rabold

【Information】
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
HIMARI出演公演
2025.3/20(木)、3/21(金)各日20:00
3/22(土)19:00
ベルリン・フィルハーモニー

〇出演
ズービン・メータ(指揮)
HIMARI(ヴァイオリン)☆

〇プログラム
ウェーバー:《オベロン》序曲
ヴィエニャフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番 嬰ヘ短調 op.14☆
シューベルト:交響曲第8番 ハ長調 D944「グレート」
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/concert/calendar/55647/

山田和樹出演公演
2025.6/12(木)、6/13(金)各日20:00
6/14(土)19:00
ベルリン・フィルハーモニー

〇出演
山田和樹(指揮)
エマニュエル・パユ(フルート)◎
セバスティアン・ハインドル(オルガン)◆

〇プログラム
レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」
武満徹:ウォーター・ドリーミング◎
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 op.78 「オルガン付」◆
https://www.berliner-philharmoniker.de/en/concert/calendar/55653/