エレクトロニクスとともに向かう創造と技巧の最前線
「現代音楽を弾く演奏家にとってはあこがれの場です」
横浜みなとみらいホールの「Just Composed in Yokohama」に出演する。毎回の新作委嘱を軸に、選ばれた一人の演奏家がその委嘱作曲家の選定にも主体的に関わる、作曲家と演奏家の双方にスポットを当てた独自の現代音楽シリーズだ。すべてエレクトロニクス作品というプログラムを組んだ。委嘱作曲家は北爪裕道。
「東京藝術大学の同級生。2012年に僕が初めて委嘱作品を書いてもらったのが彼でした。音そのものが生き生きとしているというイメージの作曲家。IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)でも学んでいますし、今回チェロとエレクトロニクスでやることになった時、すぐに彼に頼もうと決めました。新曲のコンセプトは“空間をうまく使うこと”と聞いています。出た音の粒子が客席を自由に飛び回って舞台に戻ってくる。そんなアクロバティックなやりとりをしたいと言っていました」
一方の目玉はブライアン・ファーニホウの「Time and Motion Study II」(1973-76)。そもそも今回エレクトロニクスとの共演を選んだ理由が、この曲を弾くため。
「究極の目標でした。20世紀最大の難曲。簡単には手を出せないと思っていましたが、やっと挑戦できます」
その場で録音した音が遅れて再生され、生演奏と複雑に重なる。見せてくれたスコアは過密路線の鉄道ダイヤのように複雑。チェロの右手と左手、そして声。さらに両足の音量ペダルなどが別々の段にびっしり図示されていて、その情報を読み取るだけでも気が遠くなりそう。
「どんなに複雑な楽譜であっても、ただ正確に弾くのではなく、人間味を持たせたい。10年間それを意識していろんな現代作品に取り組んできました。現代音楽も結局は古典と一緒で、一音一音に意味を見出し、音がどうしたいかを考える。留学したドイツでアンサンブル・モデルンのチェロ奏者ミヒャエル・カスパーに教えてもらったことです」
シリーズのもう一つの軸である過去の委嘱作品の再演は渡辺愛の「unimaginary landscape」(2012)。「映像が目に浮かぶような作品です」。自然や雑踏の音が録音されたサウンドトラックとチェロが絡む。もう一曲、英国のリチャード・バレットの「Blattwerk」(1998-2002)は「悪夢のような激しい変化に振り回される作品」(!)。
新旧さまざまなタイプのエレクトロニクス作品が並ぶ刺激的な一夜。共演のエレクトロニクスは、北爪の新作は作曲者自身、他は斯界のスペシャリスト有馬純寿。
取材・文:宮本 明
(ぶらあぼ2024年2月号より)
Just Composed 2024 in Yokohama ―現代作曲家シリーズ―
究極の時間、究極の空間 ―チェロとエレクトロニクスによる技巧と音響の探求
2024.3/2(土)18:00 横浜みなとみらいホール(小)
問:横浜みなとみらいホールチケットセンター045-682-2000
https://yokohama-minatomiraihall.jp