芸劇リサイタル・シリーズ「VS」Vol.9 務川慧悟 × ナターリア・ミルステイン

パリが引き合わせた俊英の初共演はストラヴィンスキーの三大バレエ

務川慧悟 ©Yuji Ueno

 務川慧悟が、東京芸術劇場のピアノ・デュオ・シリーズ「VS」にロシア系フランス人ピアニストのナターリア・ミルステインとともに登場する。ストラヴィンスキーの三大バレエ「春の祭典」「火の鳥」「ペトルーシュカ」を、いずれも2台ピアノで弾く、シリーズの本領発揮のプログラム。「ごまけない」というか、オーケストラの多彩な楽器の音色でオブラートに包まれていた作品の獰猛で鋭利な牙が、ピアノ版で聴くむき出しの骨格そのもののような響きによってあらわになるというのは、しばしば感じること。

ナターリア・ミルステイン ©Lyodoh Kaneko

 務川が共演相手に選んだミルステインはヨーロッパでの所属事務所が同じで、彼女のプロコフィエフのCDを聴き、生き生きとした感性に感銘を受けて共演を申し出たという。ひと目惚れならぬひと聴き惚れ。ミルステインは1995年生まれ。祖父ヤコブ、父セルゲイもピアニストという音楽一族。今回が初来日とのことだが、父セルゲイは神戸女学院大学の客員教授を務めていた時期もあるので、少女時代に遊びに来たぐらいはあるのかもしれない。2018年のデビューCD『プロコフィエフ/ラヴェル』で彼女は、「20世紀初頭は、紛争や社会学的な複雑さなど、現在も続く数々の議論が生まれた時代。彼らの音楽は今なお身近で、私たちに歴史を語りかけてくる」と言っている。ストラヴィンスキーも生きた、第一次世界大戦やロシア革命の激動の時代の音楽が、彼女をひきつける。
文:宮本 明
(ぶらあぼ2024年5月号より)

2024.6/18(火)19:00 東京芸術劇場 コンサートホール
問:東京芸術劇場ボックスオフィス0570-010-296 
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