名匠・秋山&天才ヴァイオリニスト・HIMARIによる世代を超えた共演にも注目!
大阪を本拠地とする日本センチュリー交響楽団がフェスタサマーミューザKAWASAKIに初登場する。
日本センチュリー交響楽団は、1989年に大阪府のオーケストラとして「大阪センチュリー交響楽団」の名称で創設された。大阪フィルがブルックナーなどの大編成の作品を得意とするのに対して、センチュリー響は古典的な2管編成を基本とする緻密なアンサンブルが特長のオーケストラとしての評価が定着していた。しかし、その後、府の文化行政の方向転換により、2011年に大阪府から独立。「日本センチュリー交響楽団」に名称を変更し、積極的に他府県での演奏活動も行うようになった。
斬新な企画を次々と実現
2014年に飯森範親が首席指揮者に就任。以後、意欲的なプログラムに取り組んでいる。たとえば、「ハイドンマラソン」。飯森の指揮のもと、ハイドンのすべての交響曲を演奏しようという一大プロジェクトであり、15年にスタートし、今年の8月で32回目となる。そして、録音も同時に進められ、この5月にはVol.20がリリースされた。飯森は山形交響楽団とのモーツァルト交響曲全集の録音が好評を博したが、この長大なシリーズが完結したときには、日本が世界に誇るハイドン交響曲全集が完成することになるだろう。ハイドンの交響曲はオーケストラの基礎ともいわれるが、このプロジェクトによって、日本センチュリー響のアンサンブル力に磨きがかけられたことは間違いない。
また、飯森は、同楽団の演奏会で積極的に現代の音楽を取り上げている。この6月にジョン・アダムズ(パシフィックフィルとの合同演奏)、9月にはカンチェリ、ヴィトマンの作品を演奏する。2021年には、久石譲が首席客演指揮者に就任。久石は自作の初演も行っている。そのほか、日本センチュリー響は、寄贈・支援者の名前を、世界初演新作の作曲依頼者として音楽史に残すというユニークなプロジェクト(「世界初演作品パトロン募集」)を繰り広げている。主催演奏会での現代音楽の比率の高さは日本のオーケストラのなかでもトップ・クラスではないだろうか。
地域に密着した活動も展開
また地元に根差したオーケストラとしては、2012年に豊中市と「音楽あふれるまちの推進に関する協定」を締結し、「豊中まちなかクラシック」を展開。その事業では日本センチュリー響のメンバーによって編成されたアンサンブルが市内の寺院、教会、ホテル、能舞台、そしてセンチュリー・オーケストラハウスなどを会場として室内楽を演奏する。17年にオープンした豊中市立文化芸術センターでは、「センチュリー豊中名曲シリーズ」という自主公演を開催。また、豊中市内にある服部緑地野外音楽堂では、1996年以来、夏に「星空ファミリーコンサート」をひらき、市民から好評を博している。
現在、日本センチュリー響は、楽団員は約50人というコンパクトな編成だが、コンサートマスターに後藤龍伸、松浦奈々、首席客演コンサートマスターに荒井英治、首席ヴィオラ奏者に須田祥子、首席チェロ奏者に北口大輔、首席ホルン奏者に日髙剛らの名手を擁し、高水準のアンサンブル力を誇っている。そして、「優れた演奏により地域の力を発信する」「オーケストラによる感動と癒しを提供する」「優れた才能を発掘し次世代の育成に寄与する」「国際相互理解や平和に積極的に貢献する」の4つの理念を掲げる。
今回のフェスタサマーミューザ KAWASAKIの演奏会では、2020年から日本センチュリー響のミュージックアドバイザーを務める秋山和慶が指揮を執る。明快な指揮と精緻な音楽作りで知られるマエストロ秋山と同楽団の相性が良いことはいうまでもない。シューベルトの交響曲第5番はコンパクトな編成であり、日本センチュリー響にぴったりの選曲である。彼らの演奏水準の高さが示されるであろう。
ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番の独奏を務めるのはHIMARI。2011年生まれの彼女の起用は、日本センチュリー響の「優れた才能を発掘し次世代の育成に寄与する」という理念の表れであるといえよう。HIMARIは、既にモスクワ・フィル、ロシア・ナショナル・フィル、N響、読響、新日本フィル、日本フィル、東京フィル、東響、日本センチュリー響、神奈川フィル、群響など、国内外の一流オーケストラと共演している。これまでに数々の国際コンクールで優勝し、今年は4月に開催されたモントリオール国際音楽コンクールの「MINI VIOLINI」(10歳から15歳まで)のカテゴリーで第1位を獲得した。原田幸一郎、小栗まち絵、アイダ・カヴァフィアンに師事。22年、アメリカの名門カーティス音楽院に合格し、ますます活動、研鑽の場を広げている。HIMARIは、パガニーニのヴァイオリン協奏曲などでの超絶技巧が印象的だが、今回は、ブルッフの第1番だけに、テクニック以上に音楽的内容で聴衆を驚かせるに違いない。
そして、最後はドヴォルザークの交響曲第8番。ボヘミア的色彩の濃い、この魅力的な作品で、マエストロ秋山が円熟の至芸を披露することであろう。
文:山田治生
フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2023
日本センチュリー交響楽団
天下の台所からクラシックフルコース
2023.8/8(火)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
(18:20~18:40 プレコンサート)
出演
指揮:秋山和慶(日本センチュリー交響楽団 ミュージックアドバイザー)
ヴァイオリン:HIMARI *
プログラム
シューベルト:交響曲第5番 変ロ長調 D.485
ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番 ト短調 op.26 *
ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 op. 88
問:ミューザ川崎シンフォニーホール044-520-0200
https://www.kawasaki-sym-hall.jp/festa/calendar/detail.php?id=3396