樫本大進の深化は止むことがない。最前線のソリストだった彼は、2010年ベルリン・フィルの第1コンサートマスターに就任後もソロや室内楽を継続。持ち前の高度な技巧と美音を生かした音楽に、細かなニュアンスや豊かな陰影を加え、世界最高峰楽団での経験を深化に結び付けている。23、24年には日本で「プレミアム室内楽シリーズ」のvol.1と2を開催。フランスの名ピアニスト、ル・サージュと共に、ブラームスとシューマンの全ソナタを披露し、聴く者を唸らせた。そして彼は今回同シリーズのvol.3を行い、ラファウ・ブレハッチと多様なソナタ主体のプログラムを聴かせる。
ヴァイオリンのリサイタルにおけるピアニストの影響力は極めて大きい。樫本も、ル・サージュのほか、リフシッツ、バックス、ゲルシュタイン、小菅優といった名ソリストたちとデュオを組み、各々の特性が生きるレパートリーで魅了してきた。その点で、今回のブレハッチとの共演は実に興味深い。2005年のショパン・コンクール優勝以来、世界的に活躍するブレハッチは、こうした著名コンクールの覇者には珍しく、親密さや温かさを湛えた内省的な音楽を奏でる印象がある。つまり、樫本がこれまで共演した才色溢れる面々とはややタイプが違う。そこに本コラボで創造される音楽への楽しみがある。
モーツァルト、ベートーヴェン、フランク、ドビュッシー、武満徹による広範な名作が並んだ「美しく、心が踊るプログラム」(樫本)は、まさしく彼が言う「宝物といえる作品の再発見」が期待される内容。その成果が待ち遠しい。
文:柴田克彦
(ぶらあぼ2024年11月号より)
樫本大進〈プレミアム室内楽シリーズ〉vol.3
樫本大進(ヴァイオリン) & ラファウ・ブレハッチ(ピアノ) デュオ・リサイタル
2024.12/14(土)19:00 ミューザ川崎シンフォニーホール
12/19(木)19:00 サントリーホール
問:ジャパン・アーツぴあ0570-00-1212
https://www.japanarts.co.jp
他公演
2024.12/11(水) 札幌コンサートホール Kitara(道新プレイガイド0570-00-3871)
12/15(日) 所沢市民文化センター ミューズ アークホール(04-2998-7777)
12/17(火) 水戸市民会館 グロービズホール(水戸芸術館チケット予約センター029-231-8000)
12/20(金) 愛知県芸術劇場 コンサートホール(中京テレビクリエイション052-588-4477)
12/21(土) 兵庫県立芸術文化センター(0798-68-0255)