山形交響楽団特別演奏会 さくらんぼコンサート2023

祖国チェコへの愛を込めて

ラデク・バボラーク (c)Lucie Čermáková

 山形交響楽団が毎年の初夏、東京と大阪で開く「さくらんぼコンサート」。今年は6月22日に東京オペラシティ コンサートホール、23日に大阪のザ・シンフォニーホールを巡演する。2018年から3シーズン、山響の首席客演指揮者を務めたチェコの偉大な音楽家、ラデク・バボラーク(1976年生)が指揮とホルン独奏を兼ねるのが何といっても注目だろう。

 バボラークは1994年にARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝、2000〜09年にベルリン・フィル首席奏者を務めた後はソリストとして世界各地で演奏する一方、指揮活動にも進出した。日本でもサイトウ・キネン・オーケストラの首席ホルンを務めたり、水戸室内管弦楽団を指揮したり…と八面六臂の活躍ぶりだ。

 「さくらんぼコンサート2023」では「チェコの指揮者」として、冒頭にスメタナの交響詩「わが祖国」の最終曲(第6曲)「ブラニーク」(1879)、メインの交響曲にドヴォルザークの第8番(1889)とチェコ国民楽派の傑作を置いた。「わが祖国」の中で最も有名な第2曲「ヴルタヴァ(モルダウ)」ではなく、第6曲としたのは興味深い。「ブラニーク」は15世紀のボヘミア(現在のチェコ)でキリスト教改革に立ち上がったフス教徒たちが眠る山であり、チェコの有事には彼らが蘇り、人々を助けるという言い伝えがある。一方、「ドヴォ8」は英国の出版社が楽譜を出した縁から、かつて「イギリス」の副題を与えられていたが、実際には後期3大交響曲(第7〜9番「新世界より」)の中で、最もボヘミアの穏やかな自然を反映した作品だ。

 ベルリン・フィル首席を務めていた時期ですらバボラークの「チェコ愛」は激しく、「やがて母国へ戻るだろう」と噂された。豊かな自然に恵まれ、さくらんぼをはじめとする果物や米、野菜の宝庫である山形との相性が抜群だったのも想像に難くない。

 もちろん世界トップクラスのホルン——単に巧みで豊麗なだけでなく、温かく大きな人間性の漂う音の魅力も存分に味わえる。プラハと相思相愛の関係にあったモーツァルトの傑作、ホルン協奏曲第3番(1787)だけでなく、イタリアのオペラ作曲家・ドニゼッティ未完のホルン協奏曲を、スイス・ロマンド管弦楽団の首席も務めたホルンの名手エドモン・ルロワール(1912〜2003)が再構成、管弦楽パートを整えた版で聴けるのがありがたい。モーツァルトにホルン協奏曲を“書かせた”とされるヨーゼフ・ロイトゲープ(1732〜1811)とルロワール——2人の偉大な先輩に対し、バボラークが捧げるオマージュでもある。
文:池田卓夫
(ぶらあぼ2023年6月号より)

東京公演 
2023.6/22(木)19:00 東京オペラシティ コンサートホール
大阪公演 
6/23(金)19:00 大阪/ザ・シンフォニーホール
問:山響チケットサービス023-616-6607 
https://www.yamakyo.or.jp