カーチュン・ウォン(指揮) 日本フィルハーモニー交響楽団

次期首席指揮者の個性が光るアグレッシブなプログラム

 5月の日本フィル定期は次期首席のカーチュン・ウォンが登場。シンガポールという多文化都市国家で育った指揮者らしいプログラムを聴かせる。

 まずはミャスコフスキーの交響曲第21番。交響曲が時代遅れのジャンルとみなされていた20世紀のヨーロッパとは異なり、ソヴィエトでは社会主義リアリズムの名の下に労働者のための分かりやすい交響曲が積極的に作曲された。15曲を残したショスタコーヴィチが有名だが、それを遥かにしのぐ27曲を作曲したのがミャスコフスキーだ。第21番は単一楽章。15分ほどの作品で、後期ロマン派を思わせる分厚く垂れこめた気分が支配する。

 芥川也寸志もヨーロッパ的なものから離れ、日本の民族性に向かい、社会主義リアリズムにもシンパシーを示した作曲家。同一音型の反復を原理にした「チェロとオーケストラのためのコンチェルト・オスティナート」にもその個性が生きる。邦人作品を積極的に取り上げているカーチュンのリード、難関ミュンヘン国際音楽コンクールを制覇した佐藤晴真のソロというフレッシュな顔ぶれにも期待大。

 ヤナーチェクはチェコ・モラヴィア地方の民族音楽にインスピレーションを得て個性を確立したが、晩年の「シンフォニエッタ」にはそのエッセンスが凝縮されている。総計12本のトランペットが登場する壮麗なファンファーレも聴きものだ。

 本場から離れた、いわば周縁にあたる地域では、外部から輸入されたクラシックがそれぞれの地域文化と混交し、独自性が開花する。その醍醐味をたっぷりと味わわせてくれるに違いない。
文:江藤光紀
(ぶらあぼ2023年5月号より)

第750回 東京定期演奏会〈春季〉
2023.5/12 (金)19:00、5/13(土)14:00 サントリーホール
問:日本フィル・サービスセンター03-5378-5911 
https://japanphil.or.jp