来年2月に第10回大会の入賞者披露演奏会を開催!
文:飯尾洋一
写真提供:神戸市民文化振興財団
若手フルート奏者の登竜門として世界的に高い評価を得ているのが神戸国際フルートコンクールだ。数ある国際音楽コンクールのなかでもフルートのみに特化したコンクールはまれ。1985年の創設以来、4年ごとに開催され、トップレベルのフルート奏者を数多く輩出している。
神戸といえば歴史的にも外国文化を取り入れて独自のスタイルを築いてきた文化都市。「音楽のまち神戸」というキャッチフレーズがよく似合うが、そのイメージに神戸国際フルートコンクールが大きく貢献していることはまちがいないだろう。しかし、コンクールがスタートするきっかけは、意外にも1985年に神戸市で開催された学生スポーツの祭典「ユニバーシアード競技大会」にあったという。スポーツのみならず文化の面でも若者たちが競い、将来に残せる事業ということで、フルートのコンクールが提案されたのだ。国際音楽コンクールの開催は、神戸の国際都市としての知名度の向上や国際交流の推進に寄与する。
今にして思えば、フルート専門のコンクールを開催するというアイディアは慧眼というほかない。フルートが選ばれたのは、日本人に愛好者の多い楽器であることと、世界にフルート単独の著名な国際コンクールは少なく、後発であっても高く評価される可能性があったためだというが、その後のコンクールの歩みを見れば、当初の狙いは見事に的中している。また、そこには神戸育ちの名フルート奏者であり、開催に尽力し、審査員を務めた金昌国の存在も大きかったことだろう。1987年には日本から初めて国際音楽コンクール世界連盟に加盟して、国際的な存在感を高めている。
一般にコンクールの価値は、そこからどれだけの才能を輩出してきたかによって問われる。著名コンクールとは、すなわち著名な音楽家を生んだコンクールでもある。若い音楽家たちは国際コンクールの入賞を通じて、その名を知られ、活躍の場を広げる。参加する音楽家から見れば、自分たちはコンクールによって選抜されていると感じるだろうが、実はコンクールの側も参加者に選ばれる立場にある。すぐれた才能が集まってくれなければ、コンクールそのものの価値が下がってしまうからだ。たとえショパン・コンクールであれ、チャイコフスキー・コンクールであれ、傑出した音楽家を世に送り出せなければコンクールの威光は失われてしまうだろう。
その視点から神戸国際フルートコンクールの歴代の入賞者を振り返ってみると、驚くほどすぐれた奏者たちが巣立っていることに気づく。歴代入賞者中、なんといっても有名なのは、1989年の第2回大会で第1位を獲得したエマニュエル・パユ。現在、世界最高峰のオーケストラであるベルリン・フィルの首席フルート奏者を務め、さらにはソリストとして八面六臂の活躍をくりひろげている。室内楽でもレ・ヴァン・フランセの一員としてきわめて幅広いレパートリーをとりあげて管楽アンサンブルの可能性を追求している。まさに世界最高のフルート奏者と呼んで過言はない。
1997年の第4回大会の上位入賞者も強烈だ。第1位は現在ロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席奏者を務めるケルステン・マックコール。第2位がシカゴ響の首席奏者やベルリン・フィルの首席奏者(つまりパユと同じポジション)を歴任したマチュー・デュフォー。そして第3位がバイエルン放送響の首席奏者を務めているヘンリク・ヴィーゼ。なんと上位3人がすべて世界最高ランクのオーケストラの首席奏者へと羽ばたいたことになる。
近年の大会の例を挙げれば、2009年の第7回大会で第3位を獲得したデニス・ブリアコフ(2001年第5回:第5位)は、全米最高ランクを競うロサンゼルス・フィルハーモニックの首席フルート奏者の座についた。2013年の第8回大会ではふたりの1位が誕生したが、そのうちのひとり、セバスチャン・ジャコーはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管(現在はベルリン・フィル)の首席奏者になり、もうひとりのマチルド・カルデリーニは、フランス放送フィルの首席奏者に就任した。
現代の一流オーケストラの首席奏者の座を巡るオーディションの厳しさ、競争の激しさはたびたび耳にするところではあるが、これだけ入賞者が世界トップレベルの舞台へと飛躍していることは、コンクールにとって誇るべき実績だろう。そして、この実績は審査の目の確かさを証明しているともいえる。審査員には内外のトップレベルのフルート奏者、音楽家たちが名を連ねてきた。歴代の審査委員長を朝比奈隆、金昌国、峰岸壮一、酒井秀明が務め、審査員にはこれまでオーレル・ニコレ、ウォルフガング・シュルツ、ウィリアム・ベネット、エミリー・バイノンら、錚々たる名手たちが参加してきた。
この2月には、コロナ禍によりオンラインで開催された第10回大会の入賞者たちが、東京の浜離宮朝日ホールで披露演奏会を行う。これまでの入賞者たちがそうであったように、彼らもまたさらなる高みへと飛翔してゆくことはまちがいない。
第10回 神戸国際フルートコンクール 入賞者
第1位 ラファエル・アドバス・バヨグ / Rafael ADOBAS BAYOG
第1位 マリオ・ブルーノ / Mario BRUNO
第3位 マリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ / Marianna Julia ŻOŁNACZ
第3位 石井希衣 / Kie ISHII
第5位 アンナ・コマロワ / Anna KOMAROVA
第6位 ジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス / Joidy Scarlet BLANCO LEWIS
※第2位および第4位はなし
第10回 神戸国際フルートコンクール DOUBLE BILL
2023.2/23(木・祝) 神戸文化ホール(中)
Stage 1 14:00
披露演奏会 〜世界が注目する入賞者たちによる音楽の饗宴
ラファエル・アドバス・バヨグ
♪デュティユー:ソナチネ
マリオ・ブルーノ
♪ピンチャー:ビヨンド(ア・システム・オブ・パッシング)
石井希衣
♪マルタン:バラード
マリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ
♪カーク=エラート:フルート・ソナタ 変ロ長調 op.121
ジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス
♪マイヤー=オルバースレーベン:ファンタジー・ソナタ op.17 他
石橋尚子(ピアノ)
Stage 2 19:00
優勝記念演奏会 〜ラファエル・アドバス・バヨグ × マリオ・ブルーノ
ラファエル・アドバス・バヨグ
♪シュルホフ:フルート・ソナタ
♪アドバス・バヨグ:ミュージック・イズ・ライフより
♪モーツァルト:フルート四重奏 二長調 K.285
マリオ・ブルーノ
♪ジャレル:無伴奏フルートのための「3つの小品」
♪ドブリエール:5つの不思議な小品
♪フランセ:五重奏 他
鈴木華重子(ピアノ)
神戸市室内管弦楽団:西尾恵子、井上隆平(以上ヴァイオリン)
亀井宏子(ヴィオラ)
伝田正則(チェロ)
第10回 神戸国際フルートコンクール 披露演奏会 東京公演
2023.2/24(金)19:00 浜離宮朝日ホール
ラファエル・アドバス・バヨグ
♪デュティユー:ソナチネ
マリアンナ・ユリア・ジョウナッチェ
♪カーク=エラート:フルート・ソナタ 変ロ長調 op.121
ジョイディ・スカーレット・ブランコ・ルイス
♪マイヤー=オルバースレーベン:ファンタジー・ソナタ op.17 他
石橋尚子(ピアノ)
※以上、演奏順ではありません
問:神戸文化ホールプレイガイド078-351-3349